B型肝炎訴訟で札幌地裁が示した和解所見は、原告側に立ちながらも被告・国の言い分にも配慮した内容だ。他の九地裁を含めた原告、被告は、この所見をもとに和解するのが望ましい。
B型肝炎訴訟では、幼少期の集団予防接種で、注射器が使い回しされ、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染したとして全国十地裁で六百二十一人の感染者や遺族が国に損害賠償を求めている。
昨年十月、国が具体的な和解案を示したあと最大の争点は、HBVに感染しても肝炎・肝硬変まで症状が進んでいない無症候性感染者への対応だった。
和解所見は法的責任の判断を避けたうえで、過去の検査代五十万円のほか、将来の検査費用も国が負担するよう求めた。
原告にとっては金額が少ない半面、「全員救済」への道が開かれた。国も民法で損害賠償を求めることができる「除斥期間」を過ぎていて「賠償金は払えない」との従来の主張が通った。
予防接種による感染との証明方法の緩和、発症者への和解金の上積みなども所見で示された。
原告、被告双方に個々の点では不満は残るだろうが、この機会を逃してはならない。感染者が治療に専念できるよう、双方とも歩み寄り、一日も早く和解すべきだ。
和解が成立すれば、訴訟に加わっていない患者・感染者も、予防接種による感染であることを証明できれば、和解金が受けられる。
厚生労働省によると、HBV感染者は全国で百万〜百三十万人とみられ、このうち無症候性を含め約四十数万人が救済対象になる。
対象者全員が和解金を請求したと仮定すると、今後三十年間に、最大三・二兆円が必要となる。
薬害エイズやC型肝炎の和解金よりも桁違いに大きく、薬害としては過去最大規模だ。
戦後始まった予防接種のおかげで、多くの国民は重い感染症にかからずに健康に過ごせた。
だがその陰で、戦後の劣悪な医療事情を背景に、今では当たり前になっている注射器の使い捨てが当時は全く行われず、一部の国民はHBVに感染し、今も苦しむ悲劇を招いた。
予防接種による感染者の被害救済を、健康な国民全体で分かち合うことが求められる。
国が和解に踏み切るには、こうした事情を十分に国民に説明し、理解を得る必要がある。
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