一昨年、世界的に流行した新型インフルエンザがことしも流行する兆しを見せ始めた。今のところ、毒性が増した証拠は確認されていないが、最悪の場合を想定し、十分な警戒が求められる。
インフル流行の動向を示すのは、全国約四千八百の医療機関から厚生労働省に送られる一週間単位の患者報告数で、昨年第五十週(十二月十三〜十九日)の一医療機関当たりの報告数は一・四一で流行開始の目安である一・〇〇を上回った。最新の報告の第五十二週(十二月二十七〜一月二日)には二・三〇とさらに増え十一週連続の増加だ。
報告数は昨年十月半ばから増え始めた。最初は季節性のA香港型(AH3N2)が多かったが、十二月からは新型(AH1N1)の方が多くなった。
一昨年の新型の大流行と違い、ことしは新型、A香港型、さらにB型が混在しているのが特徴だ。
新型の流行を通じ、五歳以上二十代前半の世代では六割が免疫の抗体を獲得したとみられるが、乳幼児では四分の一、五十〜七十代ではそれ以下にとどまっており、感染すれば肺炎を起こす恐れがある。重い持病のある高齢者の場合には特に注意が必要だ。
新型が流行の主流になりつつあるが、A香港型も甘くみてはならない。A香港型は季節性の中で最もインフルエンザ脳症を起こしやすいことが分かっており、脳症の頻度はAソ連型の十倍、B型の五倍に達する。しかもA香港型はこの数年、大きな流行がないため抗体を持たない乳幼児が多いとみられ、感染により例年以上に脳症が発生することが懸念される。
最大の対策は、かかった場合の重症化を防ぐ予防ワクチンの接種だ。さいわい今シーズンから新型、A香港型の両方のワクチンを一度に接種できるようになった。
年齢により接種順が決められた一昨年と違い、だれもがいつでも受けられるが、接種後に十分な抗体ができるには一カ月近くかかるため早めの接種がいい。咳(せき)やくしゃみを周囲に飛ばさない「咳エチケット」、帰宅後の手洗いなども習慣として行いたい。インフルにかかったと思われるときには速やかな受診が望ましい。
昨秋以降、鳥インフル(H5N1)が全国で五件確認されている。これと新型インフルの遺伝子とが混ざり合い、人にも感染する毒性の強いウイルスが出現する可能性があるだけに、関係官庁は協力して監視態勢をとるべきだ。
この記事を印刷する