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江戸の昔、大店(おおだな)の盛衰は主人よりも大番頭の人次第だったという。存在は大きかったが、ゆえに心得違いをする者もいたらしく、戒めも伝わる。「分限玉の礎(いしずえ)」という古文書は七カ条を挙げ、第一に次の心得を説く▼「主人大事と思うは勿論(もちろん)、軽き親方(主人)なりとも侮るべからず」。続く第二条は「この家に我なくばなどと、高慢顔あるべからず」とある(青野豊作〈ぶんさく〉著『番頭の研究』)。むろん仙谷官房長官に心得違いなどなかったろうが、菅内閣の大番頭がついに交代と相成る▼ときに首相をしのぐ存在感が揶揄(やゆ)を招いた。参院で問責決議をされてもいた。交代によって野党から審議拒否の大義名分を奪い、身内の小沢元代表の政権批判も封じる。二方面に向けた首のすげ替えというが、政治はこれで沈滞を突破できようか▼登山をしていて「輪形彷徨(りんけいほうこう)」に陥ることがある。道を失って同じ所を歩き回ることで、体力を消耗して死につながる。民主党の政治も似ていよう。歩いても歩いても「小沢山」「マニフェスト谷」「ねじれ峠」――と同じ地形が悪夢のように現れてくる▼「このままでは行き倒れだ」は全国幹事長会議での悲鳴だという。国民はもっとたまらない。早く稜線(りょうせん)へ出て、新しい地平を見せてくれるのが、何をおいてもの政治の使命だろう▼冒頭の七カ条に戻れば、しんがりの第七条には「勘忍の二字、忘れまじ」が控える。勘忍は美徳だが、世論調査を見れば国民の堪忍袋の緒はぎりぎりに細っている。大番頭の交代から先、掛け値なしの背水の陣が待つ。