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茨木のり子さんの詩「みずうみ」から引く。「〈だいたいお母さんてものはさ/しいん/としたとこがなくちゃいけないんだ〉/名台詞(めいせりふ)を聴くものかな!/ふりかえると/お下げとお河童(かっぱ)と/二つのランドセルがゆれてゆく/落葉の道……」▼「ランドセル」の一語が利いている。子どもの成長の道連れである。ランドセルが歩いているような後ろ姿で入学し、やがて負けずに背負えるほどに育つ。詩人を驚かす「名台詞」も口にするようになる。背中の親友は、小さな喜怒哀楽を6年間、黙って見守ってくれる優しい存在だ▼そんな「親友」が10個、前橋市の児童相談所に置かれたのは暮れのクリスマスだった。それを誘い水に、情けの泉がわき出すように、「タイガーマスク」の主人公を名乗る善意が広まっている▼最初の善意への共感が相次ぐのも、「ランドセル」が利いていよう。ぴかぴかのランドセル姿は、子どもが貧と富、幸と不幸で分け隔てされてはならないことの象徴だ。初代タイガーマスク氏の、ささやかだが、志ある一灯だったろう▼市井の善意とは異なるが、山形県庄内町を思い浮かべる。ランドセルを新入生全員に贈り続けていて、今年も187人が新品をもらう。「子どもたちが地域の宝だという思いを、町民みんなで分かち合うのです」は原田真樹町長の弁だ▼一つ一つは小さな善意が、「社会で子を育てる」という脆(もろ)い理念を、確かな意識に高める力になればいい。人みな人の世の子。めぐる春、善意のランドセルをゆらす小さな背に幸いあれと願う。