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1月11日付 編集手帳

 向田邦子さんの脚本によるテレビドラマ『阿修羅(あしゅら)のごとく』に鏡開きの場面がある。「これ、油で揚げて、塩振るとおいしいんだ…」。三姉妹(加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ)が久しぶりに顔をそろえた実家の台所である◆にぎやかなおしゃべりのなかで姉妹は鏡餅を金づちで砕き、欠き餅を揚げる。岩波現代文庫『向田邦子シナリオ集2』の表紙には、金色に揚がって器に盛られた餅の写真が飾られている◆暦や歳時記が日に日に遠ざかっていく現代である。パックに納まった鏡餅では砕く楽しみにいささか欠けようが、1月11日の鏡開きはいまも生活のそばにある昔懐かしい行事の一つに違いない◆姉妹の会話がある。「ね、何か思い出さない? お餅のひび割れ見て――」「アッ!」「お母さんの(かかと)!」。きょうは欠き餅をこしらえながら、ひび割れた踵であったり、あかぎれの手であったり、遠い日の思い出からにじみ出る自前の塩味を調味料に加える人もいるはずである◆ある程度の年齢を重ねた人には、暦にある行事や習わしは、月によらず、日にもよらない。どれも例外なしに“母の日”だろう。

2011年1月11日01時30分  読売新聞)
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