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初春の大阪・千里、日本万国博覧会記念公園は寒風のなかだ。
「人類の進歩と調和」をテーマに1970年、万博が開かれた。太陽の塔近くのEXPO’70パビリオンが、6421万人を集めた40年余前の熱気を伝える。電気自動車、動く歩道、ワイヤレスフォン……万博で生まれた製品類を紹介している。
その館を一歩でると、人影はまばらだ。万博の施設を転用した遊園地エキスポランドに遊具類は見当たらない。07年に乗客が死亡する事故があり、客足が激減して、経営破綻(はたん)した。
公園の中央にある国立民族学博物館は昨年、生みの親を亡くした。千里を「知的生産の拠点に」と、創設に奮闘した初代館長の梅棹忠夫さんだ。
世界各地の文化を先鋭的に展示したユニークな施設は、すっかりこの地にとけ込んだが来訪者はだいぶ減った。開館翌年の78年に60万人を記録したのだが、近年は3分の1ほど。行政改革の余波で研究者の数も絞られた。
公園に近い千里ニュータウンは、来年、街開きから半世紀を迎える。
日本の大規模住宅地開発のさきがけとなり、高度成長を支えたサラリーマンらが入居した街は、一斉に高齢化が進む。人口はピーク時から3割減り、今や3人に1人近くがお年寄りだ。
大阪や関西の先頭を走った千里の今は、地域の苦境を映す鏡でもある。
■少子高齢化の先端社会
中国・上海で昨年催された万博には7308万人が入場し、大阪万博の記録を塗り替えた。中国の国内総生産は昨年、日本を抜いたとみられる。
世界中から人と資本があつまる活況の上海に対し、大阪は昨今、負け組の代表の観がある。「日本経済は大阪の二の舞いになるのか」という特集が雑誌で組まれ、デフレ最前線の街として米紙にルポされる。
確かに、域内総生産や事業所数、失業率など各種の指標は大阪の地盤沈下を如実に示す。なかでも現役世代の減少が全国一というところがつらい。出生率が低いところに、本社機能の移転などの社会減も大きい。
関西全体でも人口は他地域より速く減る。2005年から25年までの間に1割近く減ると予想される。
しかし、40年後の上海万博跡地に、千里より美しい光景が広がっている保証はない。好況もいつかは終わる。一人っ子政策をとってきただけに、高齢化の影響は日本以上に大きくなるだろう。中国以外のアジアの国々でも、少子化の兆しははっきり見えている。
とすれば、千里のありさまは大阪と関西の、そして日本の将来を先取りしているだけでなく、中国やアジアの未来の姿を示しているのではないか。
■千里ブランドを見直す
その千里では高齢化社会へ向けたさまざまな取り組みが始まっている。
拠点の一つは「近隣センター」だ。建設当時、数千人規模の団地ごとに、商店や幼稚園、銭湯などの施設を徒歩圏に集めた。その後、大規模スーパーが進出し、車社会が到来した。多くの商店は閉鎖され、衰退した。
そんな空き店舗を利用して、住民らが運営するカフェができ、出会いの場となっている。そこから、「千里グッズ」の制作・販売や竹林の保護に取り組むグループが生まれ、大学の研究室や留学生との交流も始まった。
集合住宅の建て替えで、子育て世代の入居もあり、お年寄りと子供らがふれあう場を設ける試みも模索されている。徒歩圏が見直されている。
地元の吹田市は、ニュータウンと万博公園、太陽の塔をあわせて世界遺産の登録をめざす大風呂敷を広げた。
共通するのは、千里の良さをもう一度見つめ直そうというまなざしだ。
潜在力は高い。万博にあわせて道路や鉄道が整備され、緑豊かな自然が残る。大阪大などの教育・研究施設は多く、高水準の医療機関もある。
そうした資源は、時代に合わせて有効に活用されてきたわけではない。
万博公園が、地元市や地域住民との十分な意思疎通を通して運営されてきたとは言い切れない。大学や博物館と住民らが機能的なネットワークを築いているとも言い難い。
関西全体に通じる話だ。首都圏に次ぐ経済規模があり、歴史的資産や都市基盤に恵まれてきたから、これまではお互いに連携し課題にあたるという気風に乏しかった。
■持てる資産を生かし切る
人口減少に伴う需要減を補うには、たとえば、外国人に来てもらい、ものを買ってもらうことだ。
京都の祇園、奈良の東大寺、神戸の北野坂……。関西には、有力な観光資源が目白押しである。それを有機的に組みあわせれば、大きな効果を発揮するだろう。力の入れどころだ。
大学の多い土地柄で、留学生も多い。就職先が見つからず帰国する若者たちを、積極的に雇用したい。民間の力で発展し、外国人も多く住んできた関西が全国に先んじたい。
人が減ることは悪いことばかりではない。ゆったり暮らせるし、電車や空港の度を越した混雑もない。外国人を受け入れる余地も大きいはずだ。
東京やアジアの他の都市に負けない魅力や住みやすさ、食事のおいしさを追求することが肝心だ。それが客を呼び込む力となり、アジアの将来のモデルにつながるだろう。