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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
地域の小学生との食事会に出たご高齢が、箸使いのお粗末を嘆いていた。持ち方が定まらず上手に挟めない。だから突き刺したり、口元まで運べず食器に顔を寄せたりする。気になりだすと色々あって、「どうにもねえ」と案じ顔だった▼箸使いへの苦言や意見は古くて新しい。ずいぶん前にも永六輔さんが、料理番組に出るタレントがきちんと箸を使えないと叱っていた。「親が教えていない。先生も注意しない。結局、いい年をして満足に箸が使えない」▼最近の内閣府の調査も、お粗末を裏付けている。18歳以上を対象に調べたら、持ち方を正しく答えられたのは54%だったそうだ。2本のうち下の1本は動かさず、上のを親指と人さし指、中指で動かす。そうした基本も、持ち方を知らねば始まらない▼正しく持ってなお、箸には禁じ手が多い。刺し箸、寄せ箸、迷い箸。嫌いなものをのける「撥(は)ね箸」、食べながら人や物を指し示す「指し箸」など、手元の作法書によれば30を超す。昔のお嬢様は、箸先を1センチ以上ぬらさぬようしつけられたそうだ▼そんな箸に欧米人は神秘を見たらしい。フランスの思想家ロラン・バルトは「箸をあやつる動作のなかには、配慮のゆきわたった抑制がある」と言った。それに引きかえ西洋のナイフとフォークは、槍(やり)と刀で武装した狩猟の動作である、と▼バルトはまた、箸に母性や、鳥のくちばしの動作も見た。こんな川柳がある。〈栗飯の栗母さんの箸が呉(く)れ〉森紫苑荘(もりしおんそう)。うまく操れぬ大人が増え続ければ、優しい光景も消えかねない。