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裁判員制度はことし3年目に入る。これまでに1500件を超す判決が言い渡され、とりわけ昨年秋から暮れにかけては注目の裁判が相次いだ。検察側が死刑を求刑した事件。被告が少年[記事全文]
「軽便汽車乗てぃまーかいが(軽便汽車に乗ってどこへ行く)」。沖縄の鉄道唱歌の歌い出しである。沖縄には戦前、県営の鉄道が走っていた。軽便とはいえ総延長は48キロに及んだ。[記事全文]
裁判員制度はことし3年目に入る。これまでに1500件を超す判決が言い渡され、とりわけ昨年秋から暮れにかけては注目の裁判が相次いだ。
検察側が死刑を求刑した事件。被告が少年で、大人とは違う配慮が求められた事件。犯罪と被告を直接結びつける証拠がなく、検察側が状況証拠を積み上げて立証した事件。死刑求刑事件のうち一つはこの積み上げ型で、結論が無罪となったのは記憶に新しい。
さらに、善悪を判断する能力が劣る被告の事件。起訴内容が多く、全体をいくつかに区分けし、それぞれ別の裁判員が審理した事件――。
個々の判断については、人によって賛成、反対、共感、疑問など様々な思いがあるだろう。だが、裁判員一人ひとりが責務を自覚し、熟考を重ね、この正念場を乗り越えたことは、判決後の会見内容などからうかがえる。
世論の評価はどうか。朝日新聞社の先月の調査によると、制度を導入して良かったと思う人がほぼ半数に達し、裁判への信頼が高まると答えた人が34%、低くなる9%、変わらない48%だった。調査方法は異なるが、法施行前の2008年12月時点では、制度に賛成は34%と少数派で、信頼が高まる29%、低くなる10%だった。
なお不安や戸惑いはあるものの、人々は裁判員たちの働きを前向きに受け止めていると言っていいだろう。
専門家と市民が協働して、犯罪や刑罰、更生などについて考えを深めていく社会と、専門家にすべてを委ねる社会と。苦しくても前者をめざす道を私たちは国会を通じて選び、そして実際にめざす力があることを、この1年半余の経験で確認しつつある。
もちろん手放しで喜んではいられない。工夫すれば裁判員の心身の負担をもっと減らせるのではないか。逆に裁判員を気遣うあまり、被告の権利の保障をはじめ大切なものを見失ってはいないか。常に足元を確認しながら、歩を進める必要がある。
ひとつ気になるのは、公判の最初に検察官がする冒頭陳述のありようだ。関係者の供述など、これから法廷で吟味する証拠の内容をふんだんに盛り込む例が少なくない。弁護側主張への反論も先取りする形で展開され、審理の最後に検察側の言い分を整理するために行う論告かと思うほどだ。
これでは裁判員を混乱させ、判断にも不当な影響を及ぼしかねない。議論の環境を整えることは法律家の重要な役割である。見直しを求めたい。
裁判官、検察官、弁護人それぞれが経験を重ね、技量と自信を深めるのは大切だが、それが慣れを生み、プロによるプロのための法廷に戻ってはならない。裁判員と同様に新鮮な目と感覚を持ち続け、事件に向き合う。3年目に向けて心すべき課題である。
「軽便汽車乗てぃまーかいが(軽便汽車に乗ってどこへ行く)」。沖縄の鉄道唱歌の歌い出しである。
沖縄には戦前、県営の鉄道が走っていた。軽便とはいえ総延長は48キロに及んだ。陸上貨客輸送のかなめだった。
それが消えたのは、営業不振で廃止されたわけではない。すべて沖縄戦で破壊されたのだ。
戦後、ほかの都道府県では戦災復興の形で国が鉄道を再整備した。沖縄には那覇空港と那覇市首里を結ぶモノレールの「ゆいレール」はできたが、かつての鉄路の復活は放置された。
沖縄の人たちは郷土を美(ちゅ)ら島(しま)と呼んで愛する。そこに今、あの鉄道を再びと願う声が熱を帯びている。内閣府は2010年度予算で、鉄軌道の導入を含めた交通体系の構築に向けて調査費をつけた。地元国会議員らによる議員連盟もできた。
沖縄は車であふれている。
那覇市など本島中南部の渋滞のひどさは全国でも有数だ。混雑時の時速は平均15キロで、東京、大阪、名古屋の三大都市圏より遅いという。
渋滞による経済的な損失は道路1キロ当たり年間1億1500万円になり、全国7位の多さだという試算もある。
世界から集まる観光客も、朝夕のあの渋滞には戸惑うだろう。車中心の交通は限界に達している。
鉄道には巨額の投資が要るので、すぐに実現できるとは思えない。だが、過度な自動車依存から抜け出し、美しい島を守るために、新たな交通体系の導入を真剣に議論する時期にきているのではないか――。
そう鐘を鳴らしたのが、沖縄経済同友会だ。従来型の鉄道ではない、低騒音で高速運転も可能な路面電車を09年に提案した。欧州で発達したLRTと呼ばれる型式だ。建設費用は1キロ当たり20億〜30億円と試算し、地下鉄やモノレールより優位と説明している。
有識者でつくる市民団体「トラムで未来をつくる会」は昨年、ほぼ戦前の鉄道の路線に近いルートを含む6路線を沖縄本島中南部に考え、本格的なLRTを走らせようと提言した。
導入に追い風も吹いている。地域公共交通活性化再生法が、07年にできた。国土交通省は全国の自治体にLRTの導入を勧め、予算措置にも積極的な姿勢をみせる。
日本に超高齢化社会が迫る。
子や孫に頼らないと外出もできないお年寄りはさらに増える。LRTは低床でバリアフリーにもでき、交通弱者の利用にやさしい。電気で動くので、環境にもやさしい。
沖縄は国内随一のクルマ依存県だからこそ、低炭素社会の交通の模範になれるチャンスがある。
美ら島に鉄路がのびれば、できるかもしれない。