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北朝鮮による砲撃を受けた韓国の大延坪島(テヨンピョンド)。島民の多くが本土の仁川市などに一時転居して、火が消えたような正月になった。
約60年前に朝鮮戦争が休戦となった後、北朝鮮からの直接の軍事攻撃で韓国内の民間人が犠牲になったのは初めてだ。戦争中もこの島では被害がなかったという。島民が受けた衝撃は計りしれないし、怒りは収まらない。
韓国では、常軌を逸した北朝鮮を支え続ける中国への不満も大きい。
昨春の哨戒艦沈没事件と同様に、砲撃事件でも、中国政府は北朝鮮を批判しなかった。それどころか、中国が同意せず、国連安全保障理事会は北朝鮮への非難声明を出せなかった。韓国民の中国へのいらだちは当然だ。
その一方で、「中国を本格的に学び直そう」という提言が、韓国のメディアや政界をにぎわす。
韓国が、中国と国交を結んだのは1992年。このころ、中国は89年の天安門事件による国際的な孤立から完全には抜け出せていなかった。
■隣国を改めて学ぶ
今、韓国にいる留学生の6割近くが中国人で、中国で学ぶ外国人学生の3分の1が韓国人というように、交流は予想を超えて幅広くなった。
中国も国交樹立時とは様変わりし、米国に迫る大国になった。軍事力は急速に強大になり、なかでも海軍力の増強が目覚ましい。中国は東アジアの安全保障環境さえ変えつつある。
そして、米中関係は世界の安定に最も重要な二国間関係になりつつある。それなのに、中国の政治や外交は読み切れない。
米国との関係を基軸としつつ、中国を深く研究しなければならない理由である。それは日本も同じだ。
中国は共産党体制で、政策の決定過程はブラックボックスのようだ。しかし、「異質」と決めつけるだけで、手をこまねいているわけにはいかない。
波乱続きの日中関係を振り返ると、なおさらそうだ。日中関係の発展は米中関係の安定や、アジア太平洋地域の平和に寄与できるだけに残念だった。
「発展すればするほど謙虚であるべきで、無思慮に他人を批判してはならない。分を越えたことは言わず、分を越えたことはしてはならない」
中国を改革開放に導いたトウ(トウ=登におおざと)小平氏の言葉だ。才能を覆い隠し目立たせないというこの「韜光養晦(とうこうようかい)」路線は放棄したとしか見えぬ中国だが、トウ氏は次のようにも述べている。
「内政にはいかなる者の干渉も決して許すことができないし、中国は一切譲歩できない」
とはいえ、中国はこれまで「発展こそ確かな道理」といったトウ氏の教えに忠実に、経済発展に力を入れてきた。経済が最大の国益だったのだ。
■国益の変化に注目
経済優先は、中国の自信をよみがえらせたようだ。発展とともに強まるナショナリズムを背景に、主権や領土も中国当局にとって、おろそかに出来ぬ国益となった。この変化を凝視しないと日本の国益を損ないかねない。
日中が尖閣問題で対立していた昨年9月、中国とロシアの首脳会談が開かれ、次のような共同声明が出された。
「主権や統一、領土保全などの核心利益にかかわる問題での互いの支持が戦略的協力の重要な中身だ」
北方領土と尖閣諸島の問題での共闘宣言ともとれる。この直後、メドベージェフ大統領が北方領土を訪れた。中国が繰り広げる外交を広い文脈から見なくてはならない。
独裁国の中国とは人脈など作れないと考える人が、民主党の一部にいるようだ。だが、それは考え違いである。米中関係を見ればわかる。
米国と中国は人民元や貿易、台湾への武器供与などで日中以上にぎくしゃくしてきたが、ゲーツ米国防長官が近く北京を訪れる。胡錦濤(フー・チンタオ)主席は今月、国賓として5年ぶりに訪米する。
大国同士の戦略的外交の一環ではあるが、米中関係を支える下地としての幅広い民間交流があってのことだ。
米中関係の扉を開いたキッシンジャー元国務長官の訪中は、100回を大幅に上回る。ロック商務長官は長年、対中ビジネスのアドバイザーを務めていた。米中関係の復元力の強さの一因は、やはり人間関係なのだ。
自民党に比べて中国とのつながりが希薄な民主党は、中国とのパイプ構築に全力を注がなければならない。
そのうえで、政府間や政党間にある対話のチャンネルを、米中戦略・経済対話のように活性化させる。そうやってこそ、政治や経済、安保、環境などの問題に、戦略的に取り組めるのだ。
■ネット世論を使う
中国側を理解、納得させ、行動に移させるために、その4億人を超すネチズン(ネット市民)に日本の考えを、政府だけでなく民間も発信していくことが重要だ。
中国の有名なネット言論人の安替氏によれば、既成メディアは当局の考えに縛られるが、ネット上の議論は百花斉放である。中国政府の監視が及びにくいツイッターが今では世論を導く。
北京の米国大使館はすでに毎月、影響のあるブロガーらを招き、大使との意見交換をしている。オバマ大統領の意向だという。
日本も官民で中国国民に直接働きかける外交を試みていきたい。