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【社説】

年のはじめに考える 歴史の知恵 平和の糧に

2011年1月1日

 新しい年を迎えました。希望や期待に胸躍るより、先行きへの不透明感や不安が込み上げてくるのは、日本を取り巻く内外環境が厳しいからでしょうか。

 北朝鮮が韓国を砲撃した朝鮮半島の緊張は解けません。日本を抜き世界二位の経済大国となった中国は海洋進出を強めています。

 政権交代で誕生した民主党の鳩山政権は、経済の国境がなくなるグローバリゼーションの果てに「東アジア共同体」を創成する夢を語りました。しかし、成長する中国やインドなど新興国は軍拡を進めナショナリズムが高まり、主権や領土の主張を強めています。

◆主権と領土の覇権競う

 菅政権が昨年末、発表した今後十年の防衛力整備の方向を決める新防衛大綱は中国の動きを「懸念材料」と名指ししました。世論調査でも中国に親しみを感じる人は史上最低を記録、隣国にとげとげしい視線が向けられています。

 アジアの状況は既成の大国や新興国が、主権と領土をめぐり覇を競った二十世紀初頭にも似てきたように見えます。ただし、当時、勢力図を塗り替える台風の目だったのは日本にほかなりません。

 明治維新を成し遂げ富国強兵に励んだ日本はアジアで、いち早く近代化に成功しました。朝鮮半島の覇を争った日清戦争、南下するロシアと対決した日露戦争に勝った日本は「坂の上の雲」(司馬遼太郎氏)を目指す新興国でした。

 当時、米国で学んでいた若い歴史学者の朝河貫一(一八七三〜一九四八)は、日露戦争を韓国、満州を支配し外国を締め出そうとするロシアと、領土を保全し市場開放を目指す日本の戦いと描き、日本に対する支持を訴えました。

 米国は表向き中立を守りましたが、同じ新興国としてセオドア・ルーズベルト大統領をはじめ日本に支援を惜しみませんでした。

◆対外進出を促した怒り

 中国の「門戸開放」が、列強の中国分割に立ち遅れた米国の利益であるとともに、米外交の理想にもかなっていたからです。米国で日本に支持を訴えた朝河にとって、日露戦争の目的は領土や賠償であってはなりませんでした。

 しかし、対ロ講和のポーツマス条約で賠償はなく、得られた領土は樺太南半分にとどまったことに国民は日比谷焼き打ち事件(一九〇五年)を起こし不満を爆発させました。日本はこの怒りに突き動かされるように、韓国併合や対華二十一カ条要求など強引な対外進出に突き進んでいきます。

 祖国の危険な兆候を見た朝河は日露終戦から四年後に「日本の禍機(かき)」(講談社学術文庫所収)を著し、東洋の平和と進歩を目指した日本が、それをかき乱し世界の憎悪を浴びる危険を訴えました。

 そして「日本もし不幸にして清国と戦い」「米国と争うならば」「文明の敵として戦う」ことになると警告しました。このとき、朝河は既に日本の三十二年後の運命を見通していたようです。朝河は日本人として初めて米国で社会科学の大学教授になりましたが、帰国せず米国で客死しました。

 二十一世紀のアジアで経済発展が軍備拡大とナショナリズムの台頭を招き、米欧や周辺国と摩擦を強めているのは中国です。

 中国が世界が共有する人権や自由などの価値を受け入れず、自らも、その被害者だった力による外交を強めるなら、世界の反発を招くことになりかねません。

 旧ソ連に対し北海道へ自衛力を集め戦車を並べた時代と違い中国の海洋進出が強まる今、重点を南西に移し潜水艦部隊などを充実させるのは当然です。

 しかし、中国に懸念を表すだけで対話や協力を求めるのを怠れば、中国は軍拡で対抗するでしょう。ましてや、中国に対するナショナリズムをあおるなど感情的な対応は百害あって一利なしです。

 むしろ、世界の潮流に背き国の破滅を招いた痛苦な体験を持つ「先輩」の日本が中国に助言できることは少なくないはずです。

 日本は第二次世界大戦の惨禍から学んだ人類の知恵ともいえる「戦争放棄」を盛り込んだ憲法九条を擁し「核なき世界」を先取りする「非核三原則」、紛争国に武器を輸出しないと宣言した「武器輸出三原則」を掲げてきました。

◆貴重な外交資産生かせ

 これらは今後、国際社会に日本が貢献する際の足かせではなく、平和を目指す外交の貴重な資産です。紛争国に武器を与えない日本だからこそ自衛隊の国連平和維持活動参加が歓迎されるのです。

 脅威や懸念には米国など同盟国、周辺国と連携し現実的に対応しながらも、平和国家の理想を高く掲げ決しておろそかにしない。

 そうした国の在り方こそ、世界第二位の経済大国の座を中国に譲っても、日本が世界から尊重され続ける道ではないでしょうか。

 

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