あの独特の塩辛い声が、歳末の慌ただしい雰囲気を一層盛り上げています。東京・御徒町のアメ横はきのう、カニやカズノコ、マグロなどの食品を買い求める人で混雑し、身動きが取れないほどでした▼寒風の吹く雑踏の中で心に浮かんだのは、この一年間、健康で過ごせたことへの感謝です。個人的な話で恐縮ですが、ちょうど十年前の今月三十日、大腸がんの告知を受けました▼その日、病院から帰るいつもの道は、それまでと違って見えました。目に入る景色がとても新鮮に映ったのをよく覚えています。幸い再発はしませんでしたが、病気は敗北ではないと学びました▼がんは人に「死」を真剣に考えさせる病である、と順天堂大学の樋野興夫教授は自著に書いています。「告知された瞬間から、死を強く意識し始める。たとえ早期がんで98%治ると言われてもです」(『がん哲学外来の話』)▼死と正面から向き合わざるを得ないが故に「がん闘病は、究極の自分探しの旅」(樋野教授)になるのでしょうか。きょうのNHK紅白歌合戦に、食道がんを克服した歌手の桑田佳祐さんがスペシャルゲストとして出場します。病を得てより深みのある歌声を響かせてくれるのを期待します▼病気や貧困と闘うすべての人にとって、来年こそ幸多い一年であることを祈ります。この一年間、ご愛読ありがとうございました。