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12月31日付 編集手帳

 「劬り」と書いて「いたわり」と読む。以前、山本周五郎の『赤ひげ診療(たん)』を読んでいて出くわし、漢和辞典を引いた覚えがある◆「劬」は背中を丸くかがめた姿をいい、転じて「うつむいてせっせと働くさま」を表すという。句の力――偏と(つくり)に分けてみるとき、読む人を引きつける磁力をこめてひと文字、ひと文字を(つづ)り、言葉の彫琢(ちょうたく)に生涯を(ささ)げた人の名がいくつか浮かぶ◆宮中歌会始の選者も務め、今年8月に64歳で世を去った歌人、河野裕子さんを(しの)ぶ会に、皇后陛下は『亡き人』と題する御歌(みうた)を贈られた。〈いち(にん)の多き不在か俳壇に歌壇に河野裕子しのぶ歌〉◆一人の人間が抜けた空白とは思えぬほど大きな喪失感が、「いち人の多き不在」だろう。俳句の森澄雄さん、小説・戯曲の井上ひさしさん、つかこうへいさん、随筆の名手だった池部良さん…いずれも「多き不在」を感じさせた“劬り”の人である◆誰の初七日か、国文学者の折口信夫に歌がある。〈なき人の/今日は、七日になりぬらむ。/()ふ人も/あふ人も、/みな 旅びと〉。旅人との別れが、これほど胸に残る年の終わりもない。

2010年12月31日01時14分  読売新聞)
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