政府の新たな雇用対策がまとまった。企業への奨励金支給や減税を通じて新卒者の採用を拡大し非正規労働者の正社員化を目指す。政策の方向は妥当だが、雇用の安定化にはまだ不安が残る。
菅直人首相は雇用を政権の最重要課題とし対策を打ってきたが、雇用情勢は厳しいままだ。十一月の完全失業率は前月と同じ5・1%と高水準。大学生の新卒者内定率は十月現在、57・6%と就職氷河期といわれた二〇〇〇年代前半を下回った。
一一年度予算案では雇用の安全網の強化が目立つ。失業給付が切れた人などを対象に無料の職業訓練と生活費を支給する「求職者支援制度」を創設。また最低賃金の引き上げに取り組む中小企業へ奨励金制度を新設する。
新卒者支援では全国のハローワークにジョブサポーター約二千人を配置して相談態勢を一段と強める。三年以内の既卒者を新卒扱いとして正社員に採用したり、トライアル雇用後に採用した中小企業などへ、一人当たり百万〜五十万円の奨励金を支給する。
一方、来年度税制改正では法人税の実効税率を5%引き下げる。「雇用促進税制」も創設し雇用を10%以上かつ五〜二人増やした企業に対して一人当たり二十万円の法人税の税額控除を認める。
こうした対策が遅滞なくスタートすればかなりの雇用誘発効果が見込めよう。だが、労働者側からは心配な点が多々ある。
まず、政権の実行力である。予算案は次期通常国会で本年度内に成立するだろうが、税制改正法案や求職者支援法案(仮称)などはまだ見通しが立っていない。
また法人税減税は国内投資を増やし雇用拡大につなげる政策意図があるが、経済界は「主要国よりも高い税率を引き下げて国際競争力を強化するための措置」と指摘。投資と雇用促進を約束するものではない−と冷ややかだ。
さらにパートや派遣社員などの非正規労働者の正社員化と均等・均衡待遇推進は待ったなしだが、労働政策の転換は遅れ気味。懸案の労働者派遣法の改正法案の成立時期も不明なままだ。
菅首相は政権の求心力を早急に回復させなければならない。また企業が自発的に採用を増やすよう経済政策をしっかりと推進すべきだ。そして若者や女性、高齢者、障害者、外国人などすべての人が安心して働ける社会を築く。そんな目標への道のりを示す「雇用ビジョン」策定が不可欠である。
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