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机の脇に掛けたカレンダーを外して、新年用に替えた。1年間、眺め、眺められて小欄を書いてきた。良い日があり、さえない日があった。いちいちを本人以上に記憶しているかも知れない。未来から過去に流れた365日をとどめて、古暦(ふるごよみ)は少しやつれた風情で役目を終える▼この季節、文房具店は暦と手帳、それに日記が売り場を広く占領する。年あらたまる候は、せわしない日頃より長めのイメージで「時」を思う時節でもあろう。〈ためらはず十年日記求めけり〉水原春郎▼3年、5年と使える連用日記は根強い人気があるそうだ。中高年には息災を願う座右の「お守り」でもあろうか。〈三年連用を新しく買うごとに、無事にこの一冊を書き終わりたいと願っていた〉。作家の吉屋信子が随筆に書いている▼こよい、連れ添った日記の最後を埋める方もおられよう。悔恨よりも、充実と感謝の言葉をつづる人の多からんことを。そして、あすからの新しい日記帳には未知の歳月が並ぶ。きびしい世相だが、空白で待つページに、不安ではなく希望を見てとりたい▼きのう近所の神社をのぞいたら、こざっぱりと迎春の装いをととのえていた。ざわざわした人の世を、いっとき、静かにひきしまる時間が通過していく。しんしんと降る雪の中で除夜の鐘を聞く地方もあることだろう▼身も心も浄化されるリセット感があらたな力を生む。そして、新しいカレンダーに並ぶ一日一日を迎え入れる。吉屋信子の一句が思い浮かぶ。〈初暦知らぬ月日は美しく〉。どうぞよいお年を。