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2010年12月29日(水)付

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斜陽の年―興隆、衰退そして再生へ

 全通したばかりの東北新幹線で新青森駅へ。さらに在来線と津軽鉄道を乗り継ぐ。うまくいって1時間半ほどで五所川原市金木(かなぎ)町に着く。太宰治のふるさとである。

 太宰の生家は津軽の大地主だった。高さ4メートルのれんが塀で囲まれた和洋折衷の重厚な建物は、戦後人手に渡り、斜陽館として保存されている。

 敗戦は日本をいったんゼロにリセットした。それから65年後の今年、日本を覆うのは、やり場のない斜陽の感覚である。雪に覆われた巨大な館の前でみな立ちすくんでいるかのようだ。

■目まぐるしい盛衰

 1945年にゼロ歳の日本ちゃんが生まれたとしよう。11歳で「もはや戦後ではない」と初等教育を終え、若々しく成長し、19歳で早くも五輪を成功させ国際デビューする。伸び盛りの25歳の時には万博も開いた。

 石油ショックなどがあって成長の速度は落ちたが、30代になると一億総中流を自任した。40歳で対外純資産が世界1位になった。さすがにもうけすぎだと言われて、プラザ合意で為替レートが一変しバブルが始まる。

 40代半ばのころ東西冷戦が終わり、その後バブルが崩壊する。50歳の時に阪神大震災とオウム事件に遭った。そのころから病気がちになり、小泉改革の劇薬も効かず65歳の今にいたる。このまま老衰するわけでもあるまいが、人の一生に等しい短い時間で目まぐるしい盛衰を経験しつつある。

 今年おそらく国内総生産で世界2位の座を中国に譲った。鶴のマークが海外への希望の象徴だった日本航空は破綻(はたん)した。大学生の就職は超氷河期。所在不明の高齢者は続出し、自殺者は13年連続で3万人を超えそうだ。

 国民の期待を背負って政権に就いたはずの民主党の迷走は、日本の立ち位置を皮肉な形で示してくれた。

 変化を掲げたオバマ米大統領は、巨大資本の呪縛や保守派の攻勢で身動きがとれない。中国は拡大する経済に見合った軍事力への渇望や、広がる格差が生む動揺を抑え切れていない。

■人口減社会の行方

 それぞれに矛盾を抱え、支配力を失っていく東の大国と、力をつけていく西の大国とどう付き合っていくのか、日本の姿勢は定まらない。インドや韓国の台頭もあって、アジアでの存在感は希薄になるばかりだ。

 インターネットと市場の標準化によってグローバル化した世界は、その創設者である米国にも他のどの国にも制御できなくなってしまった。その流れが経済だけでなく、政治や社会全体に及んでいることがウィキリークスなどの登場ではっきりした。

 国の枠を超えて直接つながった新しい世界には中心も辺境もない。誰がそれを動かしているかもわからない。えたいの知れないものに支配されるような不安が人々を襲っている。

 斜陽感を生む原因の最たるものは、国が縮んでいくことだ。英国の雑誌エコノミストは11月、「日本の重荷」という特集を組んだ。主題は少子高齢化による人口減少である。この点では、世界の先端を走る日本の動向が注目されているということだ。

 今のままでは95年に8700万人いた労働人口が2050年までに5200万人にまで減る。人口ピラミッドは上の方が広いつぼのような形になる。国力は衰退し、年金制度や社会保障は行き詰まる、という警告である。

 そんなことは外国から言われなくともわかっている。だが、わかっていても私たちは真剣に考えているだろうか。いつか誰かが、どうにかしてくれるわけはない。

 日本ちゃんの比喩で言えば、まだ元気な40代ぐらいまでに次世代のことを考えるべきだったのだ。

 対策ははっきりしている。子どもを産み育てやすい環境をつくる。女性が働きやすい仕組みをつくる。外国から人を入れる。どれもが必要で、劇的に進めないともう間に合わない。

■人類史から学ぶ

 今年、ハーバード大学の「正義」の授業が話題になり、ニーチェやマルクスが読まれた。行き詰まりを打開する鍵を探そうという思いからだろう。

 朝日新聞が識者アンケートで選んだ「ゼロ年代の50冊」の1位はJ・ダイアモンド著の「銃・病原菌・鉄」だった。社会の豊かさの違いがなぜ生まれるのかを、最後の氷河期が終わった1万3千年前からの人類史をひもといて論じたものだ。

 ダイアモンド氏は「銃……」の続編の「文明崩壊」で日本を取り上げ、先進国の中でも人口密度の高い社会が維持されてきた理由を、恵まれた自然と地勢、江戸時代に森林を管理、再生させたことなどによるとしている。

 名古屋であった「地球生きもの会議」を機に、この列島の森や海が、世界でもまれな生物多様性に富んだものであることが再認識された。

 最後の氷河期が終わったころ、日本は縄文草創期である。縄文人は豊かな自然の中で、鋭利な石器を削り、世界で最古級の土器をつくった。

 斜陽の気分の中で思い起こすべきなのは、私たちはなお恵まれた環境にいるということだ。知識や社会資本も十分に蓄えられている。それらを土台に何か新しいものを生みだし続けていく。そうすれば、これからも世界で役割を果たしていけるだろう。

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