米国とロシア両国首脳が調印した新しい核軍縮条約について、米上院が批准を承認した。オバマ大統領は「核なき世界」の実現という遠大な目標に向けて、ようやく一つ具体的な成果を挙げた。
米上院では野党共和党の一部も批准賛成にまわった。オバマ大統領は「最近二十年間で最も重要な軍縮合意だ」と力説した。ロシア側も近く議会が承認する。条約は来年前半にも発効する見通しだ。
米ロの新しい戦略兵器削減条約は旧条約と比べ、双方が配備する戦略核弾頭の上限を約30%削減して千五百五十とし、弾道ミサイルや戦略爆撃機など運搬手段の上限は半減の八百としている。
核施設の相互査察や弾道ミサイルの実験データ交換など、検証制度も確立される。条約発効から七年以内に削減目標を達成しなくてはならない。
新条約では戦略核弾頭のうち備蓄分と、短距離の戦術核兵器は削減対象から外される。オバマ政権が議会承認を急ぎ、核兵器と核関連施設の近代化の名目で予算を増額するなど矛盾は残る。
それでも、全世界の核兵器の95%を持つ米ロの合意は、他の核保有国に削減を促す説得力を持ちうる。核拡散防止条約(NPT)体制の強化につながり、「唯一の被爆国」日本としても核廃絶の一歩と評価できる。
ブッシュ前政権時代に悪化した米ロ関係もリセットされる。イランの核開発阻止やアフガニスタン安定化などをめぐる米ロ協調の道が広がることになろう。
一方で、北朝鮮は核実験をし、イランもウラン濃縮活動を停止しようとはしない。NPTを順守しない国々に核開発の口実を与えないよう、米ロは早期に核軍縮に取り組み模範を示す責任がある。
両国は今後、短距離戦術核などを対象とした新たな軍縮交渉を進める見通しだ。
不安な要素もある。ロシアは米が欧州でのミサイル防衛(MD)配備を強行すれば「新条約からの離脱もありうる」と主張する。これに加え、北大西洋条約機構(NATO)は別のMD構想を持つ。核軍縮の流れに悪影響を及ぼさないよう、三者には対立回避を求めたい。
中国は核兵器保有数が米ロより一桁少ないが、削減に取り組む姿勢を見せず、日本の安全保障にとって懸念材料だ。米ロは今後中国も巻き込んで、多角的な核軍縮協議の設置に取り組むべきだ。
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