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【社説】

週のはじめに考える ユーロ解体論の深層

2010年12月26日

 欧州が歴史的な寒波に凍えています。ユーロ不安の陰に縮みゆく欧州の姿が投影されているかのようです。欧州の知恵を示さなくてはなりません。

 「ユーロ解体のシナリオ」

 刺激的な記事が先ごろ、独シュピーゲル誌電子版に掲載されました。ユーロ不安が国際社会を襲って久しい今、主要メディアがあからさまにその解体を論じるところまで事態は差し迫ってきたのでしょうか。

◆誰の益にもならぬ解体

 ドイツの国際政治安保研究所の専門家たちにより想定されているのは二通りのシナリオです。一つはドイツが他の経済安定諸国とともに強いユーロ圏を形成し、南欧諸国を中心とした諸国とは別の通貨圏を形成する可能性。もう一つは、各国がそれぞれ独自通貨に回帰する場合です。

 いずれのケースにせよ、記事は独自通貨の再導入には紙幣再印刷などに膨大なコストがかかること。仮にマルクが再導入された場合、為替相場が大幅に切り上がり、輸出主導のドイツ経済が致命的な打撃を被ること。さらには、ドイツが所有している南欧諸国の国債が暴落し、巡り巡って自分の首を絞める結果となる、といった見通しを示し、加盟国にも欧州連合(EU)にも、また国際社会にとっても利益にもならない事態となり、その選択に至る可能性は低い、と結論付けています。

 EUが陥っているジレンマの深層には、統合プロセスをめぐる二つの相対する考え方があります。連邦主義的な考え方に向けて統合を進めるべきだとの立場と、あくまで国民国家としての主権を最大限尊重し国家連合にとどまるべきだ、とする考えです。

 統合推進派の代表格は、フィッシャー元独外相でしょう。

◆主権移譲の弱い環

 フィッシャー氏は二〇〇〇年、強い権限を持つ大統領、上下両院、政府を前提とした欧州連邦構想を提起し、今も折に触れEUがグローバル社会に生き残るための求心力の大切さを訴えています。

 これに対するのが欧州懐疑派の流れです。経済的な共同体までは歓迎だ。しかし、国家主権の制限や移譲は極力ごめん被る、という立場です。かつて「英国の金を返せ」と訴えて分担金の返還を実現させたサッチャー元英首相が想起されます。

 戦後、不戦の誓いから、統合の原点となった欧州石炭鉄鋼共同体構想が打ち出されて六十年。単一通貨ユーロが生まれて十二年。リスボン条約に結実した現在のEUは、この二つの潮流が紆余曲折(うよきょくせつ)を経てようやくたどり着いた妥協の産物でもあります。

 超国家統合体への主権移譲という意味で、ユーロは欧州統合の象徴です。しかし、財政主権が各国に残されたまま、という点で「弱い環(わ)」を抱えたままです。バラバラな加盟国間の調整に時間を費やさなければならないシステムは、瞬時の判断が勝負を決する国際金融舞台に拘束衣をつけたまま臨むようなものかもしれません。

 シュピーゲル誌の指摘を待つまでもなく、ユーロ解体は、欧州統合そのものを根幹から揺るがさざるをえないでしょう。「ユーロ防衛のためにはどんなことでもする」。さきのEU首脳会議で示された決意はその政治的意思表明でした。

 そのためのツールは既に揃(そろ)っているはずです。EU外務省が発足しました。「欧州の声」を発信する受け皿が始動します。ユーロ救済のための一連の支援措置も国際社会へのメッセージになるでしょう。

 しかし、こうした仕掛けを生かすために決定的に欠けているものがあります。次世代の欧州像を語れる指導者です。

 「ユーロは戦争と平和の問題だ」と説いたコール元首相は八十歳です。かつて「ユーロは早産児だ」と批判したシュレーダー前首相もすでに六十六歳。五十六歳のメルケル首相は、リスボン条約合意に大きく貢献しましたが、金融危機発生後は国益優先の独自判断で行動し、周辺国から「新たなドイツ問題」と懸念する声すら聞こえ始めています。

◆二級市民化への危機感を

 「ユーロは経済を超えるヨーロッパの政治である」と近著で指摘する田中素香・中央大教授は、「危機はいましばらく続くでしょう。でも、欧州統合は先進国間で始まり、二級市民になりたくない南欧諸国の構造改革を促しながら推進されてきたのです」として、ユーロの将来を、統合を進める欧州の連帯感に託しています。

 ユーロが解体すれば、EUそのものがグローバル社会で二級市民の地位に後退しかねません。強烈な危機意識を共有する指導者の登場こそ求められています。 

 

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