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天声人語

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2010年12月26日(日)付

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 祖母、母、そして自分。東京に暮らした女三代の「デパート観」を、早世した劇作家の如月(きさらぎ)小春さんが書き残している。明治末生まれの祖母は、あらたまった買い物は「日本橋の高島屋か三越」と決めてゆずらなかったそうだ▼昭和ヒトケタ世代のご母堂はもっぱら新宿の伊勢丹。老舗に対抗する新興勢力の花形だった。そして自身は池袋の西武をひいきにした。「おいしい生活」などの宣伝コピーが1980年代の流行語になり、存在感は他を抜いていた。如月さんと同世代の筆者も、当時の華やかさは印象に深い▼その絶頂期にオープンした有楽町西武がきのう、クリスマスの夜に店じまいした。昼間の人、人、人は往年のセールを彷彿(ほうふつ)させた。だが、どれだけ賑(にぎ)わっても明日はない。燃え尽きるろうそくは、炎がきらめくほど淋(さび)しさが残る▼その昔、デパートは押しも押されもせぬ祝祭的空間だった。〈遠足の列大丸の中とおる〉と俳人の田川飛旅子(ひりょし)は戦後に詠んだ。見学コースだったのだろう。昭和30年代ごろまでは修学旅行の観光に組み込まれてもいた▼そんな憧れの時代は遠くなり、包装紙のご威光もいつしか薄れた。「冬の時代」も今年はいっそう寒く、愛知の松坂屋岡崎店や、京都の四条河原町阪急などが相次いで終止符を打った▼往年のデパートには、晴れがましさと、ちょっと背伸びした幸せが詰まっていた。大人には宝石箱、子どもにはおもちゃ箱といったところか。名残をとどめるのは福袋ぐらいと皮肉る人もいる。再生への知恵を、どうかしぼってほしい。

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