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財政悪化が一段と深みにはまってしまった。菅政権がきのう閣議決定した来年度の政府予算案は、異常な借金頼みが際立つものになった。民主党政権が初めて概算要求段階からつくり上げ[記事全文]
米国の著名な判事が残した言葉がある。「検察官の義務とは事件に勝つことではない。正義を行うことだ」その正義が大きく揺らいだ大阪地検による証拠改ざんの発覚から3カ月。最高検[記事全文]
財政悪化が一段と深みにはまってしまった。菅政権がきのう閣議決定した来年度の政府予算案は、異常な借金頼みが際立つものになった。
民主党政権が初めて概算要求段階からつくり上げた予算案とはいえ、大枠は鳩山前政権下でつくった今年度予算とウリふたつだ。
歳出総額は当初予算として過去最大の92兆円。税収はその半分にも満たない。穴を埋めるのは借金である国債発行と、特別会計の剰余金や積立金などのいわゆる「埋蔵金」である。
昨年末に巨額の国債発行が許されたのは、世界的な経済危機を乗り切る「緊急避難」としてだった。危機が峠を越えてもこの膨張が続けば、将来が危ういのではないか。そんな疑問にすら答えていない。「未来予測が不能な政治」は不信と不安を生み、投資や消費を萎縮させ、デフレの加速要因とすらなってはいないだろうか。
高齢化は今後も続き、社会保障予算は毎年1兆円超のペースで増える。その財源の裏付けはまったくない。社会保障の将来像が展望できずに、国民一人ひとりが安心な人生設計を描きようもない。「予測可能な政治」に変えることこそ、安心社会の礎としてまず必要ではないか。
菅政権は、どんな「国のかたち」をめざすのか、国民に示し、問う必要がある。経済成長による税収増を別とすれば、構造的な財政赤字体質を改めるには3通りの選択肢しかない。大幅に歳出を削るか、大増税するか、あるいは両方の合わせ技か、だ。
民主党は「歳出削減」の道を選び、ムダ減らしで9兆円余りの財源を捻出すると公約した。しかし昨年来の3次にわたる事業仕分けで見つかった財源は1兆円程度にすぎない。ムダ減らしだけで財政を立て直す路線は、とうに破綻(はたん)している。
増税カードを加えなければ、財政再建の解がないのは明らかだ。菅直人首相が参院選前に「消費税10%」論に言及したのもそういう認識からだ。
欧州財政危機が火種となって、各国財政の弱みを突く市場の動きが世界中で鋭く激しくなっている。日本国債も最近、価格下落の波に洗われた。
国と地方の借金は国内総生産(GDP)の約2倍もあり、先進国で最悪。それでも日本国債の信用がかろうじてつなぎ留められてきたのは消費税率の引き上げ余地が大きかったからだ。
とはいえ、増税できない政治状況が続けば、その信用はいつか崩れる。
結局、消費増税を軸とする税制の抜本改革の道筋を早く示す、という基本に立ち返るしかない。それによって社会保障の未来を保証し、雇用を生むために政府がもっと力を発揮するのだということを国民に理解してもらう。それなしに問題は乗り越えられない。
米国の著名な判事が残した言葉がある。「検察官の義務とは事件に勝つことではない。正義を行うことだ」
その正義が大きく揺らいだ大阪地検による証拠改ざんの発覚から3カ月。最高検の検証結果がまとまった。
犯人隠避の罪に問われた前特捜部長らが否認し、裁判も始まっていないとあって、細かな経緯など伏せられた部分が多い。もどかしさは否めない。
それでも検証結果からは、真相の解明という、検察官にとって最も重要で忠実であるべき価値を脇に置き、上司の評価や人間関係、体面などを優先させたゆがんだ姿が浮かび上がる。
個人の資質や能力のせいにして済ませられる問題でなく、組織の風土と文化に巣くう病理ととらえなければならない。ところが、検察当局はどこまでその認識を持っているのか。検証結果には言い訳がましい記述も散見され、疑念を持ってしまう。
再発防止策として最高検は、特捜事件に関する決裁の強化や、取り調べ状況の一部録画などを打ち出した。チェック機能を高めることに異論はない。だが、検察に都合よく運用できる一部録画で不信を拭えると思っているとしたら、考え違いも甚だしい。
今後、法務省に置かれた第三者機関が、検証結果を参考に検察の将来像を議論する。特捜部という組織を存続させることの功罪を含め、人事評価のあり方や検察官が守るべき倫理など、本質に切り込む提言を期待したい。
裁判員制度が始まり、刑事事件は大きな曲がり角にある。検察は過去の成功体験と決別し、時代にふさわしい捜査・公判を追求しなければならない。
罪を問わないことを条件に情報の提供を受ける司法取引をはじめ、他国が実践している捜査手法の研究にも本格的に取りかかる時期が来ているように思う。人権の保障と真相の解明とをどう両立させるか。社会全体で考えるべき重要な課題である。
検証結果の公表にあわせ、大林宏検事総長は職を辞すことになった。その決断を評価したい。取り調べ検事による暴行など深刻な事件が起きても、おざなりの責任しかとってこなかった歴代幹部の振る舞いが、今日の独善的な体質をつくった面は否めない。
国民の信頼を失った時、検察という組織は立ちゆかなくなる。改ざん事件後、参考人が事情聴取に応じてくれないなど、世の厳しい風を痛感している検察官は少なくないのではないか。
これまでも事あるごとに「基本に忠実な捜査」が唱えられてきた。だがそれは浸透せず、身についたものになっていないことが今回明らかになった。
冒頭の言葉を胸に刻みながら、当たり前のことに当たり前に取り組む。その先頭に、新たに検事総長に就任する笠間治雄氏は立たなければならない。