「玉音放送」があった一九四五年八月十五日から、官庁や陸海軍の部隊で、機密書類を燃やす煙が上がっていた。戦犯追及などに備え、関係資料の徹底処分を指示されていたからだ▼ポツダム宣言受諾後、政府は公文書の焼却を決定し、大半の公文書が灰になった。このため保存された証拠書類が基になったドイツのニュルンベルク裁判とは対照的に、東京裁判は証人に依存せざるを得なかったといわれる▼歴史に残したくない文書は消し去りたい。そんな官僚心理が働いたのか。先日公開された外交文書の中に<焼却>と手書きされたメモがあった▼見つかったのは、一九七二年の沖縄返還の際に、米国が支払うはずの米軍用地の原状回復補償費四百万ドルを日本が肩代わりした密約に関するファイル。三通の電報を示す数字の横に<焼却>の文字があった▼内容は不明だが、元毎日新聞記者の西山太吉氏が入手した機密電報の可能性がある。国家公務員法違反容疑で逮捕された西山氏は密約を指摘し続けてきたが、否定してきた外務省にとって、最も存在してほしくない資料なのだ。同省の有識者委員会にも提出されていないメモが、突然出てきたことも解せない▼形骸化していた外交文書の公開ルールの見直しは政権交代の成果だ。民主党政権は情報の公開度を一層高めてほしい。歴史を欺く愚行を繰り返さないために。