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天声人語

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2010年12月24日(金)付

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 わが身が没するほどの愛を例えて、目に入れても痛くないという。砂粒ひとつ受け入れない急所なのに、かわいい子や孫なら中で転がして一体化したい。そんな思いだろう▼どんな溺愛(できあい)と同化の痕跡か、レオナルド・ダビンチの代表作「モナリザ」の目の中に、微細な文字が書かれていることがわかった。右の目には画家のイニシャルとおぼしき「LV」、左にも「CE」か「B」と読める字が確認された▼外電によれば、ルーブル美術館に出向いて発見したのはイタリアの文化遺産委員会。50年前の本に〈モナリザの目は暗号に満ちている〉という記述を見つけ、高度の拡大鏡で調べてみたという。委員長は「500年前の筆致は不鮮明だが、さらに謎を掘り下げたい」と語る▼ルネサンスの巨匠は、フランス国王の招きで渡仏した晩年まで、この絵を手元に置いて筆を入れ続けたとされる。微笑(ほほえ)むモデルは豪商の妻と伝わるが、「女装の自画像」とする説もある▼天才は科学にも通じていた。解剖学への興味から目の研究も怠りなく、角膜の表面にたっぷり水をつけると視力を矯正できる、と考えていたらしい。『人工臓器物語』(筏義人〈いかだ・よしと〉著)にある。今のコンタクトレンズにつながる発想だ。眼中に忍ばせたサインは、後世の発明を見越した「特許願」にも見えてくる▼ダビンチの時代、魔法のルーペがあったとは思えない。では、肉眼で見えない字をいかにして書き入れたのか。一部始終を見届けたはずの瞳は、防弾ガラスの向こうから謎めいたまなざしを返すばかりである。

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