HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 18055 Content-Type: text/html ETag: "216bae-4687-83a82000" Cache-Control: max-age=5 Expires: Wed, 22 Dec 2010 22:21:42 GMT Date: Wed, 22 Dec 2010 22:21:37 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
朝鮮半島を南北に分かつ非武装地帯は、皮肉なことに、今や世界的な野鳥の楽園だという。渡り鳥にとっては、翼を休める中継地でもある。国境の空を飛び交う姿に、民族分断の悲しみはなお募る▼人工衛星で渡り鳥を追跡してきた樋口広芳さんの著『鳥たちの旅』(日本放送出版協会)によると、鳥は太陽や星を頼りに目的地に向かうそうだ。海に落ちる仲間もあり、旅は命がけ。秋の南下は避寒ではなく、食物を求めての移動らしい▼冬鳥の便りとともに、高病原性鳥インフルエンザが列島に「×印」を散らし始めた。北海道でカモ、島根で鶏、富山と鳥取ではハクチョウの感染が確認された。さらに日本最大のツル越冬地、鹿児島県出水(いずみ)市で、死んだナベヅルの感染がわかった▼国の特別天然記念物である出水の「万羽鶴」は、ロシアや中国の繁殖地から朝鮮半島を経て家族で飛来し、春先に帰っていく。鹿児島は日本一の養鶏どころ。現場の半径10キロ以内にも500万羽が飼われ、ことは地域経済にかかわる▼渡り鳥に罪はないが、ウイルスという爆弾を抱かされた飛行機に例えることができる。ひしめく鶏は、爆音におびえる無辜(むこ)の民だ。どれが爆撃機やら見分けはつかず、一発でも鶏舎に落ちれば大量処分の地獄絵が待つ▼〈北の大地から/南の空へ/飛び行く鳥よ/自由の使者よ〉。半島の悲劇を嘆き歌う「イムジン河」の詞にある。そう、鳥たちの旅に旅券や検疫はない。ゆえに北からの群れに病が広がろうと、水際で止めるすべはない。万事ままならぬ天地である。