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12月22日付 編集手帳

 詩人リルケは『貧困と死の書』に書いた。〈おお主よ、各人に「彼自身の死」を与えたまえ〉(高安国世訳『リルケ詩集』=岩波文庫)。多数の犠牲者を伴う事故や災害が起きるたび、この詩句が浮かぶ◆「彼自身の死」とは何か。リルケは言う。誰かを愛し、何かに苦悩した一人ひとりの、そういう生から生まれる死のことだ、と。一人ひとりの人生が無造作に束ねられ、「何十人」、あるいは「何百人」と、数字で(くく)られる死ほど残酷なものはない◆JR福知山線脱線事故を巡り、JR西日本の前社長(67)が刑事責任を問われた裁判の初公判で、検察側が約30分を費やして死者106人を含む被害者全員の氏名を読み上げたのも、事故の重大さが数字では言い尽くせないからだろう◆当時の記事を思い出す。潰れた車内に救助隊員が入った時、折り重なる遺体の傍らには携帯電話が散乱していたという。あちこちで光がともり、消える。着信表示には「自宅」の文字も。肉親の無事な声を聞きたい家族の祈るような電話だったろう◆死者の魂を思わす光の明滅を眼底に浮かべて、審理を見守っていくつもりでいる。

2010年12月22日01時19分  読売新聞)
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