北朝鮮軍による韓国延坪島への砲撃事件から二十三日で一カ月。南北両軍が今もにらみ合っているが、北朝鮮が核査察に応じると、急に柔軟姿勢を示した。狙いは何か、冷静に見極めたい。
韓国軍は二十日、事件後初めて延坪島で射撃訓練をした。北朝鮮側は事前に「実施すれば、予想できない自衛的打撃を与える」と反発したが、訓練は一時間半で終わり、北側の軍事行動もなかった。
砲撃事件の後、韓国は米国とともに黄海一帯で合同演習をし、北朝鮮に新たな挑発は許さないと警告を送り続けた。北朝鮮軍も臨戦態勢を整えたが、資材や燃料不足で部隊展開も十分できなかったようだ。米韓の強い抑止行動が功を奏した形だ。
ただ、韓国軍の延坪島での訓練は新たな衝突を招きかねないとして、周辺国も活発に動いた。
中国は南北双方に自制を求め、ロシアは国連安保理での緊急会合を呼び掛けた。米国は韓国を支援しながらも「応酬による連鎖反応を懸念する」(米統合参謀本部副議長)として、在韓米軍司令官が事実上の訓練監視役を務めた。
「第二の危機」を切り抜けたのは、周辺国の外交努力も大きかったといえよう。
北朝鮮は強硬策から一転、対話姿勢を見せ始めた。訪朝したリチャードソン米ニューメキシコ州知事(民主党)に対し、核問題で譲歩する意向を示した。
昨年四月に国外退去させた国際原子力機関(IAEA)の監視要員を復帰させる、保有する核燃料棒約一万二千本の第三国への売却にも応じるという。これらは核査察に同意することを意味する。
軟化姿勢に転じたかにみえるが、どんな条件を付けているのか不明だ。むしろ、北朝鮮特有の駆け引きではないか。延坪島砲撃に対する国際世論の非難をかわし、民間人の犠牲者まで出した韓国への謝罪を拒否したまま、今度は核問題に焦点を移して米国に対話を迫る狙いだ。
安保理では日米などが北朝鮮を非難する声明採択に動いたが、中国が難色を示し実現しなかった。北朝鮮はこれで国連の審議も乗り切ったと楽観しているだろう。だが韓国はもちろん日米も警戒を緩めてはいない。砲撃事件の処理でも核交渉でも、北朝鮮の戦略は通用しないはずだ。
北朝鮮はまず軍事挑発を自制すると約束し、非核化に向けた具体的行動をとるべきだ。同盟国・中国の責任も重い。
この記事を印刷する