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孤立と違い、孤独は慣れるものらしい。1962年、ヨットで太平洋を単独横断した堀江謙一さん(72)が、94日間の冒険の記録『太平洋ひとりぼっち』に書いている▼嵐と船酔いで迎えた17日目は〈寒さと心配と孤独のため、発狂しそうだ〉。それが72日目になると〈まわりに人がいないというだけの孤独なら、いつかは我慢できるようになる〉と強い。〈出てくる前のほうが、よっぽど、ぼくは孤立していた〉と▼こちらの一人旅は34年目に入った。77年秋に打ち上げられた米国の惑星探査機ボイジャー1号である。米航空宇宙局(NASA)によると、今は冥王星の軌道半径の3倍あたりを、秒速17キロで遠ざかっている。最も遠くに達した人工物だ▼木星や土星に近づくたびに脚光を浴びた長寿探査機も、口の端に上ることは少ない。すでに太陽が放つプラズマ流の速度はゼロとなり、4年後には影響圏を完全に脱するそうだ。帆に風をはらみ、未知の外洋に出る小艇を思う▼宇宙旅行ができるほどの文明は自ら滅ぶ、との説がある。だから宇宙人がなかなか地球に来ないのだと。ボイジャーは知的生命との遭遇に備え、多言語のあいさつや音楽のレコードを積む。彼方(かなた)の青い惑星に文明があった、いや、あるという証しだ▼〈冷たい夢に乗り込んで/宇宙(おおぞら)に消えるヴォイジャー〉とユーミンが歌ったのは80年代だった。人の視界や意識から消えても、その旅に終わりの予定はない。深い孤独にも、忘れられることにも慣れてはいようが、闇を進む旅人の前途に奇跡あれ、と願う。