茨城県取手市の無差別襲撃事件で若い男が逮捕された。中高生を傷つけた犯行は断じて許されない。男は自らの人生に幕を下ろしたかったという。背景に若者が希望を持ちにくい社会があるのか。
事件はきのうの朝のラッシュ時間帯にJR取手駅前で起きた。
殺人未遂の疑いで逮捕された斎藤勇太容疑者(27)は、停車中のバス二台に相次いで乗り込み、乗客に包丁で切り付けたり殴ったりしたという。
中高生ら十四人が顔や腕などを負傷した。命を落とした人がいなかったのは不幸中の幸いだ。
後続のバスに移り暴れているのを乗客の男性二人が取り押さえた。最悪の事態を防いだ勇敢な行動をたたえたい。
「自分の人生を終わりにしたかった」。斎藤容疑者は県警にそう供述している。日常生活に悩みを募らせ、先行きに希望が持てずに自暴自棄になったのか。
そうだとしても、落ち度のない子どもたちを巻き込んだ犯行は身勝手で卑劣極まりない。厳しく断罪されるべきだ。
茨城県では三年近く前にも、土浦市のJR荒川沖駅で通り魔事件があった。既に一人を殺害して手配中だった二十代の無職の男が八人をナイフで殺傷した。水戸地裁の死刑判決が確定している。
生きがいを見いだせず、死にたいと思った。けれども自殺する勇気はなく、殺人事件を起こして死刑になろうと思った。判決は犯行の動機をそう認定している。
年間の自殺者が三万人を超えて久しい。仕事のない人が六割近くを占めている。十人に一人は二十代だというから気が重くなる。
二年前、東京・秋葉原で無差別殺傷事件を起こした二十代の元派遣社員の男は、東京地裁での公判で「自分が自分でいられる場所だった」とインターネット掲示板の世界を説明した。
長引く景気の低迷で、大学や高校を出ても希望の仕事には簡単にありつけない時代だ。就職できても不安定な非正規雇用の立場だったり、正規雇用であっても会社の将来が危うかったりする。
いったん失敗すると、やり直しが利きにくい。そんな社会のありようが若者の夢や希望、誇りをねじ曲げて暴走に駆り立てるのかもしれない。
被害に遭った中高生らは心にも深手を負っただろう。学校や家庭は十分にケアしてほしい。これ以上、傷つけたり、傷ついたりする若者を生み出してはいけない。
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