HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Sun, 19 Dec 2010 02:12:32 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 『1人称』で語りませんか:社説・コラム(TOKYO Web)
東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

週のはじめに考える 『1人称』で語りませんか

2010年12月19日

 もうすぐ聖夜。近ごろサンタが来なくなったと嘆くより、明かりを消して自分自身にたずねてみてはどうでしょう。私は、僕は、いま何ができますか。

 クリスマスイルミネーションの青い海から萌(も)え出たように、東京スカイツリーが冬空に向かって伸びています。

 完成まであと一年少し、高さは五百メートルを超えました。ふもとから見上げると、江戸情緒がほのかに漂う下町の一角に、いつの間にかしっかり根を張って、名前の通り“白い巨木”の趣です。

◆粋と雅のメッセージ

 今は山の手にかすむ東京タワーの完成は、一九五八年のことでした。当時、世界一の高さを誇った優美な自立鉄塔は、敗戦でぽっかりあいた街のうつろと、人々の心のすき間をふさいでくれる温かい存在でした。

 天の高みから人々を見守る守護者でも、明治の先達が仰ぎ見た坂の上の雲でもありません。独り立ちをめざして日々ともに伸びていく、同伴者のような存在感。自立の塔には、夕焼けの赤がお似合いでした。

 スカイツリーの見せ場は、どうやら夜。照明には「粋」と「雅(みやび)」の二種類があり、首都の新しいシンボルを一日おきに彩ります。

 「粋」は隅田川の水の色。鉄骨の内側の心柱と呼ばれる支柱部分を照らし出し、表裏のない潔さ、江戸っ子の心意気を表します。

 一方の「雅」は江戸紫。あえてタワー全体を覆わずに、すそ野の一部に紫色の光を当てて、陰影を強調します。黒羽二重のえり元にちらりとのぞく緋(ひ)色の雅、歌舞伎十八番の一、助六の男伊達(おとこだて)にも通じています。

 外面の虚飾ばかりに心を砕き、これ見よがしの強烈な光と色があふれる都会の夜に、「粋」と「雅」は何を伝えたいのでしょうか。

 強すぎる光の中で、劇場と議事堂、タレントと議員の境があいまいになり、この国の政治は色をなくしつつあるようです。

 大事なものは、知名度、露出度、勝ち負け、金額、数の多寡…。自分自身の勇ましい言動にからめ捕られて、政治家は身動きがとれません。首相がくるくる交代しても、結局何も変わりません。

 強すぎる光の中から本質を見いだすことは、闇夜の探し物より困難です。しかし、私たち選び手も、いつまでも光の強さに惑わされてはいられません。観客や応援団でもいられません。

◆ここで暮らす人として

 少なくとも地域とは、市民社会とは、一人称で語るべきものだから。だれに、何をしてもらうかより先に、自分自身が何をどうしたいかをまず決めて、選んだ人と、ともに築くべきものだから。

 少し記憶をたぐってみます。こんな出来事がありました。

 「私たちは行動します」。一九九九年四月、名古屋市内の有力な環境市民団体が発行していた機関誌の巻頭に、掲載された宣言文のタイトルです。

 今でこそ「環境首都」をめざす名古屋市ですが、当時最大の悩みの種は、増え続ける家庭ごみの処理でした。その年の二月に市が「ごみ非常事態宣言」を出し、年間百万トンに達した一般ごみを、二年で二十万トン減らそうという、大都市では不可能といわれた高い目標を立てました。宣言文はそれに対する市民としての回答でした。

 「誰かにしてもらうのではなく、この街にくらす市民として行動を起こします」。宣言文は呼び掛けました。

 ごみ問題は市民自身の問題でもあるはずです。だとすれば、行政からの指示や依頼を受けて、その施策をバックアップするのではなく、自らも主体になって前へ出ようとこの団体は考えました。

 そして、名古屋市が打ち出した減量プランの主語を自らに置き換えて、いま、何ができるかできないか、十分検討した上で、無理せず、楽しく、少しずつ、二年がかりで一緒にやろうと、市民に呼びかけました。

 呼びかけの効果のほどは、はかることができません。でも目標は一年ちょっとで達成されました。

 「私たちは行動を始めます。すべては一人の行動から始まります−」

 一人称で語る暮らしやまちづくり。どうですか、少し粋ではないですか。

◆人見ざるも我は咲く

 「自分の中に幸せの基準がねえのは、やだね」。立川談志師匠の言葉。これも粋。

 「人見るもよし 人見ざるもよし 我は咲く也」。文豪武者小路実篤が、色紙に好んでしたためたという短い詩。こちらは雅。

 そう言えば「1人称」という字形。何となくスカイツリーのかたちに似ていませんか。

 

この記事を印刷する





おすすめサイト

ads by adingo