新しい「防衛計画の大綱」は、機動性を重視する「動的防衛力」の概念を取り入れた。国際情勢の変化に応じた防衛力の見直しは必要だが、周辺国に軍拡の口実を与えることになってはならない。
動的防衛力は、日本に「力の空白」が生じて周辺地域の不安定要因とならないよう、全国に部隊を均等配置してきた「基盤的防衛力構想」に代わる概念。テロや離島への侵攻などに対処できる機動性や即応性を重視して、必ずしも均等配置にこだわらない考え方だ。
動的防衛力への転換は、一九七六年の最初の防衛大綱以来続いてきた日本の防衛政策を根本から変えることになる。
基盤的防衛力構想は、ソ連崩壊で脅威が薄れた後も北海道に戦車を重点配備するなど硬直化も指摘されてきた。中国の台頭など国際情勢の変化に応じて防衛力の在り方を見直すことは当然といえる。
一方、この構想は日本の防衛力整備を必要最小限にとどめる歯止めとなってきたのも事実だ。
新大綱に基づく新しい中期防衛力整備計画では、中国の海洋進出を念頭に、沖縄など南西地域の防衛体制強化を盛り込み、自衛隊の空白地帯だった離島にも部隊を新たに配置する方針を加えた。
国土防衛は自衛隊の任務ではあるが、これまで部隊を置いていなかった場所に配置するとなれば、中国が警戒感を強め、軍事力強化を促す「安全保障のジレンマ」に陥る可能性がないとはいえない。
地域の安定を目指すための新大綱が、不安定要因をつくり出すようなことになれば本末転倒だ。中国が新大綱を軍備拡張の口実としないように日本側の意図を説明するなど外交努力も必要だろう。
新大綱は、領土・経済権益をめぐる対立など武力紛争に至らない「グレーゾーン」の紛争への対応も想定する。しかし、憲法九条で許される自衛権の発動は「急迫不正の侵害」に限られており、自衛隊の運用は、海上保安庁など警察力が対応すべき領域にまで拡大されるべきではない。
新大綱は昨年策定される予定だったが、民主党への政権交代で一年間延期された。時間が十分あったにもかかわらず、国会での安全保障をめぐる論議は低調だった。
その結果、政府の有識者懇談会が八月にまとめた安全保障に関する報告書の考えをほぼ踏襲する形となった。シビリアンコントロール(文民統制)の観点から国会でのより深い論議が欠かせない。
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