二〇一一年度税制改正大綱が決まった。税の大幅増収が見込めず、法人税減税は財源が不足したままの見切り発車だ。税率5%引き下げを指示した首相には国民が納得する財源を示す責任がある。
四十兆円程度の税収しか見込めない中で九十兆円を超える予算を編成するのなら、歳出をどう削るか、国民に広く負担を求めるのか、その決断が欠かせない。
しかし政府税制調査会は財源不足を背景に増減税の数字合わせに終始した。リーマン・ショックに直撃されたとはいえ民主党政権は発足から一年三カ月。不慣れでは済まされない。
目を覆うのは菅直人首相の指示で決着した法人税率の5%引き下げだ。一兆五千億円規模の減税財源は企業優遇税制の縮小で捻出したが、半分強の八千億円にすぎない。残る六千億円前後は予算の歳出を削って調整するという。
国分と地方分を合わせた日本の法人実効税率は世界最高水準の40・69%、韓国などを上回る。もちろん、企業の海外流出を抑え、雇用を維持するには税率を下げて競争条件を近づけ、企業を元気にさせねばならない。
だが減税は一一年度にとどまらず、その後も続く。歳出で帳尻を合わせるなら、政策経費削減による恒久財源の確保が不可欠だ。恒久的に削れる政策経費はどこにあるのか。「企業減税の生活へのしわ寄せになる」との批判もある。
菅政権は「新たな減税には新たな安定財源」というルールを決めている。自らそれを踏みにじった首相は、財務相や国家戦略担当相らと減税財源について周到に調整したのか。疑わざるを得ない。
首相が本部長を務める政府・与党の社会保障改革検討本部は、社会保障の財源確保や財政健全化を目指し、消費税の増税も視野に税制抜本改革の基本方針を決めた。
税収が落ち込んだといっても、その税収を上回る四十四兆円もの巨額の赤字国債発行なしに予算を組めない事態は尋常でない。
そうした台所事情の好転への道筋を描きたいようだが、民主党は「国民生活が第一」を旗印に、徹底した行政の無駄排除で政権交代を果たしたはずだ。
今回の税制改正では、財源として見込んでいた租税特別措置の見直しは企業などに遠慮し、表面をなぞっただけに映る。
首相自らが閣議決定をほごにし、無駄の排除を怠っていては、税制の抜本改革を手元に引き寄せることはできない。
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