HTTP/1.1 200 OK Date: Thu, 16 Dec 2010 00:12:27 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:諫早上告断念 これは始まりにすぎぬ:社説・コラム(TOKYO Web)
東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

諫早上告断念 これは始まりにすぎぬ

2010年12月16日

 菅直人首相は福岡高裁の判決を入れ、国営諫早干拓排水門の常時開門調査へと踏み出した。素早い対応はほめていい。だが、傷ついた地域の修復など問題は山積だ。政治の仕事はこれからが本番だ。

 諫早湾の干拓計画は、半世紀以上も前に始まった。

 当初は水田を造る計画だった。しかし、食料事情が急激に変化したため規模を縮小、用途を畑作に変更し、防災機能を加えて延命させた。止まらない公共事業の典型であり、戒めねばならない。

 一九八〇年代後半に順次着工、九七年、二百九十三枚の鉄板が海を切り裂くさまは“ギロチン”と呼ばれるほどの衝撃だった。

 そのころから赤潮の発生頻度が高くなり、三年後、日本一の品質を誇った有明海のノリ漁が歴史的な大凶作に見舞われた。タイラギなどの二枚貝も影を潜めた。

 総事業費が二千五百億円を超える干拓工事は一昨年春に完成し、営農が始まった。農地の広さは約六百七十ヘクタール、四十一の個人と法人が、ジャガイモやタマネギなどを育てている。

 漁業者側が国を相手に、湾を閉め切る堤防の撤去や堤防にある排水門の常時開門を求めて訴訟を起こし、事態は漁業者と農業者の深刻な争いに発展した。福岡高裁は二年前の一審に続いて、「五年間の開門調査」を命じた。

 菅首相はギロチン後に現地を視察し、諫早干拓のむだを批判してきた。

 判決は三年間の猶予をつけた。農林水産省は水量調節などをしながら、少しずつ開門することを考えた。にもかかわらず、首相は政治判断で常時開門を決めた。だが、門を開くだけでは問題は解決しない。

 すでに営農は始まっている。健全な海は漁民の生命線だ。詳細な調査結果を基に、干潟の再生、防災対策、灌漑(かんがい)用水の確保など、両者の存続が成り立つような手だてを講じ、堤防が隔てた地域の和を取り戻すまでが国の責任だ。

 判決は諫早湾と、その周辺への影響しか認めていない。しかし、調査と手当ては有明海全体に及ぶべきである。

 三重県桑名市の長良川河口堰(ぜき)などに対しても、ゲートの開放を求める声は根強い。また、全国二百カ所以上という戦後の干拓地は、コメ離れによる膨大な未利用地を抱えている。諫早は、このような政治の負の遺産解消に向けて、文字通り門を開いたにすぎない。

 

この記事を印刷する





おすすめサイト

ads by adingo