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日本語の「わんわん」と「にゃあ」は、海を渡ると「バウワウ」「ミュウ」になる。母語にどっぷりつかっていると、犬や猫の鳴き声は画一的になりがちだ。実際には一匹として同じ声はないし、聞こえ方も人それぞれだろう▼谷川俊太郎さんに「おならうた」という愉快な詩がある。〈いもくって ぶ/くりくって ぼ/すかして へ/ごめんよ ば/おふろで ぽ/こっそり す/あわてて ぷ/ふたりで ぴょ〉。豊かな「音色」は、詩人が母語の常識から解き放たれ、心の耳で遊んだ産物だ▼擬音語に限らず、何かを伝える前には言葉を選ぶ作業がある。とりわけプロポーズや面接のような勝負時、私たちは知る限りの言い回しから、思いと常識が折り合う言葉を絞り込む▼適切な表現にたどりつくには、意味と語感の二つの道があるという。意味には字引という案内人がいるが、語感には道しるべもなかった。近刊『日本語 語感の辞典』(岩波書店)の著者中村明さんが、先頃の読書面で出版を思い立った理由をそのように語っていた▼「言葉を選ぶ時に多くの表現が思い浮かぶのは、ものの見方が細やかということです。ものの見方を磨かないと、表現は増えません」。中村さんの指摘は、言葉を生業(なりわい)とする者すべてに重い▼己の仕事は棚に上げて、政治家の「語勘」を問いたい。弁舌のプロらしからぬ「暴力装置」「仮免許」「甘受」。思いが口をついたにせよ、いくらでも言いようがあった。これしきの語感力では、誰のどのおならも〈ぶ〉でしかない。磨くべし。