ノーベル平和賞が中国の獄中にいる劉暁波氏(54)に贈られた。劉氏は市民の権利を広げ、社会の矛盾を克服しようと呼び掛けた。こうした声を抑圧することは大国の将来を危うくするのではないか。
劉氏は共産党の一党独裁を批判し「国家政権転覆扇動罪」に問われ懲役十一年の刑で服役した。
急進的なイメージでとらえられがちだが、二年前の十二月十日に劉氏らが起草しインターネットで発表した「〇八憲章」は過激な内容とは思えない。
〇八憲章は改革・開放政策が「民衆の生活水準を大幅に高め」、「市民社会の成長を促した」と高く評価する。
しかし、「政権集団が権威主義的な政治を続け政治変革を拒んだ」ため「官僚の腐敗、法治の不徹底、道徳の喪失、(貧富の差の拡大による)社会の両極分化」を招いた。経済の偏った発展で「社会の矛盾は不断に累積し不満が高まった」という。「官と民の対立による(暴動など)集団事件の激増が抑えられない」現在の体制は改革せざるを得ないとしている。
そして言論の自由、人権の尊重、法の下の平等などを実現し、民主的選挙で政府を選ぶことを通じ「権利を基本に参加を責任とする公民意識を高める」ことを呼び掛けている。これらの主張は多くの人々に受け入れられるだろう。
事実、〇八憲章は民主活動家だけでなく、農民の権利擁護や環境問題、都市開発に伴う立ち退きや消費者問題などに取り組む市民や法律家、記者など多くの人々が賛同し一万人以上が署名した。
あわてた共産党政権は憲章発表直前に身柄を拘束していた劉氏を起訴し、その言論のみを理由に重罪を科す改革・開放開始以降では例のない強硬姿勢に出た。
しかし、これは欧米諸国の強い反発を買い劉氏の平和賞受賞を招いた。中国の強い反対にもかかわらず人権を尊重する多くの国々が授賞式に出席し意思を示した。
中国が授賞式を前に本人と家族のみならず、市民の権利拡大を主張する人々の自由を拘束していることは「中国が巨大な監獄になった」と批判を浴びている。
このまま劉氏の提起した問題を封じ込め続けるなら経済発展が社会矛盾の深刻化を招き、管理体制を強化せざるを得ない悪循環は続くだろう。中国が真に安定した成長を実現し世界から尊敬される大国になるためには、ただちに劉氏を釈放し政治改革に取り組むことが欠かせない。
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