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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
ピアニストの腕前を測る鍵の一つは小さな音だという。調律師の高木裕(ゆう)さんが、近著『調律師、至高の音をつくる』(朝日新書)で明かしている。最大音量は物理的に決まるので、「美しく、粒のそろった小さい音」こそが表現の幅を広げるそうだ▼「小さな音」を大切に扱うこまやかさは裁判にも要る。丹念に証拠を調べ、証言の真偽を見極める。人の命がかかるとなれば、なおさらピアニッシモの指さばきが求められよう▼老夫婦を殺害したとして、鹿児島地裁で死刑を求刑された男性(71)に無罪判決が出た。被告は否認しており、裁判員は究極の選択を迫られた。40日に及ぶ長丁場の結論は、「この程度の状況証拠では犯人と認められない」。小さな音を紡いでの終演だろう▼片や、鍵盤を無造作に殴るような裁きで、心ある人たちの耳をふさがせているのが中国だ。獄中でノーベル平和賞を受けた劉暁波氏(54)のように、民主化を求める人々を見張り、行動を起こせば牢につなぐ▼オスロでの授賞式に、出国を許されなかった親族や国内支援者の姿はなかった。「内政干渉だ」と反発する中国政府は各国に働きかけ、17カ国が欠席した。「空席」が中国のおかしさを語る、なかなかの逆宣伝である▼授賞の理由で、投獄の口実にもなった「08憲章」の発表から折しも2年。天安門世代を中心に、民主化運動を担う面々が同窓会のように北国に集まった。一人ひとりの声は小さくても、獄中のタクトが大合唱に導く。北京の拡声機が流す、調子外れの大音響に負けてはならない。