東京で初の民間人校長になったリクルート出身の藤原和博さんは、自著『つなげる力 和田中の1000日』でこう書いている。<成熟社会では「正解」を言い当てることより、失敗と試行錯誤の中で、自分自身の「納得解」を導き出すほうに軍配が上がる>▼二〇〇三年から五年間在任した杉並区立和田中学で、地域の力を存分に借りながら教育界の常識を覆す改革の手を打った。その一つが「よのなか」科と呼ばれる授業だ▼ハンバーガー店の経営者になったら。放置自転車の解決方法。裁判員になったら少年の被告に何を質問するか…。生徒はゲストティーチャーと議論し考える。いじめや自殺もテーマに取り上げた。学校と社会をつなぐ試みは、全国にも広がりつつある▼経済協力開発機構(OECD)が各国の十五歳を対象に実施した国際的な学習到達度調査(PISA)で、前回十五位まで落ちた「読解力」が八位に回復したという▼文部科学省は「改善傾向」を宣言し、学力の低下に歯止めがかかったと胸を張るが、成績下位の層は厚く教育格差の拡大も懸念される▼知識の有無ではなく、現実社会で知識を活(い)かす力を問うのがPISAの狙いだ。正解を暗記させたがる従来の日本型教育の味気なさを思う時、浮かぶのは「よのなか」科の豊かな発想だ。いま必要とされる「学力」とは何かを考えさせられる。