万引した高齢者に社会参加を促し、再犯を防ぐ。警視庁は行政や民間団体と協力して全国で初めてそんな試みを始めた。地域で自分が必要とされているという自信こそが立ち直りを支える。
高齢化が進み、かつては少年犯罪の代名詞だった万引に手を染める六十五歳以上の高齢者が全国で急増している。
二〇〇九年の摘発は二万七千人に達した。十九年連続で増えている。二十年前の七・四倍近くに及ぶ。全体の二割に上り、三割に減った少年に並びそうだ。ルールを守ろうという意識がどんどん抜け落ちていくようで深刻だ。
警視庁がまとめた万引容疑の高齢者の調査からは、こんな一つの犯行イメージが浮かんでくる。
昼間にスーパーを訪れ、陳列棚の食品類を物色してかばんに詰め込み、立ち去ろうとする。店員が見とがめると観念し、全部で千円に満たない商品を返す。生活が苦しく、所持金はあるが使いたくなかったという。でも、内心では捕まって良かったと思っている。
背景を探ると、多くは社会から孤立していた。友人がいない、相談できる相手がいない、生き甲斐(がい)がないといった人がほかの世代よりも目立った。四人に一人は孤独を感じ、二人に一人は生活に窮していた実態は見過ごせない。
そんな事情に着目した警視庁は、地域とのつながりを取り戻せば二度と万引しないのではないかと考えた。刑事手続きのみで済まさず、犯罪歴が漏れないよう注意して行政や民間団体へ橋渡しして社会参加を促そうというわけだ。
万引した五十歳以上で支援を望んだ百人に、カラオケや入浴などのレクリエーション、パトロールや清掃などのボランティアの機会を世話する。生活保護や見守り事業などの窓口にも取り次ぐ。
一年間試してみて、支援のなかった百人と比べてどれだけ効果が出たか確かめる。福祉的な視点からの取り組みで期待したい。
気になるのは、受け皿となる地域の懐の深さだ。万引した高齢者が自分も必要とされ、評価されているといった自信や責任を持てるかが再発を防ぎ、立ち直るカギになるという指摘もある。
高齢者の社会的孤立がいわれるのは万引だけではない。介護殺人や虐待、孤独死などの問題にも共通した現象だろう。人と人のつながりが薄らぐ中での警視庁の試みだが、家族や地域をどう立て直すかという意識も大切だ。
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