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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
世界に数あるクリスマスツリーのうち、一番有名なのはニューヨークのロックフェラーセンターのそれだろうか。今年は高さ22メートルの木が設(しつら)えられ、恒例の点灯式を日本の新聞、テレビもこぞって報じていた▼ニュースを眺めながら、今年はニューヨークの庶民の哀歓を描いた作家O・ヘンリーが没して100年だったのを思い出した。残した短編は約280。何と言っても、木枯らしの吹く晩秋から年の瀬の物語がひときわ名高い▼最も知られているだろう「最後の一葉」。クリスマスイブの「賢者の贈りもの」。路上生活者に冬が迫る「警官と賛美歌」など、繁栄からこぼれ落ちる人へのまなざしは、優しくほろ苦い。冬の夜のともしびのような珠玉の名品たちである▼結末には十八番(おはこ)のどんでん返しがある。そうした通俗性や感傷ゆえに、小説は愛されつつも、文学的にはやや軽んじられてきたと聞く。作者と作品がどこか登場人物に重なり合うのは、いわゆる権威との距離のせいでもあろう▼この季節、摩天楼の街に吹く風は冷たい。ここにきて米国内の失業率はまた厳しいと伝わる。「街角にころがっている何か」を常に探し求めたという小説家なら、この不況の時代にどんな短編をつづることだろう▼〈人生は「むせび泣き」と「すすり泣き」と「ほほえみ」とで成り立っていて……〉は、「賢者の贈りもの」の知られた一節だ。すすり泣きが一番多いと作者は言うが、ここはほほえみに加勢したい。日本の師走も冷たいけれど、津々浦々で笑みある物語が紡がれればいい。