HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Fri, 03 Dec 2010 22:12:42 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:農業・農政を考える 成長産業への追い風に:社説・コラム(TOKYO Web)
東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

農業・農政を考える 成長産業への追い風に

2010年12月3日

 関税撤廃の荒波を前に、日本が揺れています。しかし、それでなくても農業の改革は必然です。平成の開国を農政の夜明けにつなげなければなりません。

 担い手と呼ばれる大規模な稲作農家に、農閑期はありません。愛知県東浦町の鈴木裕二さん(38)もその一人。転作の麦をまき終え、収穫した大豆を大中小により分ける作業にめどをつけないと、年が越せません。

 この夏はその上に、猛暑のせいで白濁した未熟米を取り除く仕事が重なりました。

◆耕作放棄地にしたくない

 鈴木さんは、小売店に米を直販しています。「来年からもういらないって言われるのが、一番怖い」と、変色した米を選別する機械も買いました。それでも、天候にはかないません。一等米は激減し、米価の下落は深刻です。

 地場産米のあさひの夢は、玄米一俵(六十キロ)の卸値が八千五百円前後。昨年より二千円も落ち込みました。この地域で稲作を続けていくには八千円が限界です。鈴木さんは中古の米袋を使って出荷するなど、節約に懸命です。

 鈴木さんは「町内最後の米農家」といわれています。経営面積は約七十ヘクタール。就農時の七倍に膨らみました。二百人から託された七百枚に上る田んぼは町内に点在し、効率化もままなりません。「耕作放棄地にしてしまうのに忍びなくて」と寂しげに鈴木さん。

 民主党政権は、生産者に安心して農業を続けてもらうためにと、ことしから米農家を対象に戸別所得補償制度をスタートさせました。減反への参加を条件に、田んぼ一反(十アール)につき、一律一万五千円を農家に直接支払います。

 戸別補償の交付金が「磁力」になって、生産調整への参加が進むと、政府は自信満々でした。ところが、ふたをあければ、参加者は伸び悩み、この秋の過剰米と昨年の売れ残り、合わせて約四十万トンの在庫を抱え込む始末。

 戸別補償制度の導入で、減反するかしないかを農家が選択できることになり、米余りに拍車をかけるという懸念の声は、どうやら的中したようです。

 「戸別補償はありがたい。でも本当にお願いしたいことはほかにある」。そう強く感じているのは鈴木さんだけではありません。

 鹿野道彦農相は九月の就任時、戸別補償制度は「十年で一つ一つ見直していく」と語っていますが、そんな余裕があるのでしょうか。そんな未完、未熟の政策に、緊急課題が山積する日本農業の浮沈を賭けるとすれば、農家票目当てのばらまきといわれても、仕方がありません。

◆“黒船”がやって来た

 当面の難題が、環太平洋連携協定(TPP)です。TPPに参加して関税を撤廃すると、米や麦、酪農が安い海外産に押されて打撃を受け、農林水産省の試算では、国内農業の生産額が四兆一千億円減るそうです。

 でも問題は、自動車やテレビをとるか、農業をとるかの二者択一ではありません。どちらも大切な産業です。両立させる方策をひねり出すのが政治の仕事です。

 政府はこの難局を、現行の戸別補償を拡充して乗り切る方針で、来年度から、農地の規模拡大に取り組む農家に加算することになりそうです。しかし、直接支払いの予算は無尽蔵ではありません。これを機に、手厚く保護すべき農業から成長可能な農業へ、頭を切り替えなければなりません。

 所得補償も全国一律は改めて、地域の水源や景観を守る農業、海外へ売り込む攻めの農業、主食として最低限確保すべき農業、あるいは製造業(二次)やサービス業(三次)の要素も備えた六次産業に進化していく農業など−。目標を設定し、めりはりをつけながら、限られた予算を交付ではなく投資して、農家ではなく農業を守り育てる意思や理念が欠かせません。

 そもそもTPPへの参加で必ずだめになるような、農業、農村でいいのでしょうか。消費者も変わらなければなりません。

 日本と同様耕地面積が狭いスイスでは一九九六年、国民投票で約八割の承認を得て憲法を改めました。食料の安定供給や農村景観の保全といった農業の役割をまず明確にした上で、それらを維持する手段として直接支払いを位置付けました。減農薬や生態系保全など環境配慮も支払いの条件です。

◆自ら決めたことならば

 国民が自ら決めたことだから、消費者もおのずと農業の現状や価値に目を向けます。「安い輸入卵とそれより高い国産卵があれば、子どもでも国産を選ぶ」といわれるような志向が生まれます。

 誰がための農業か。いま日本の農政は、夜明け前の深い迷いの中にいます。

 

この記事を印刷する





おすすめサイト

ads by adingo