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天声人語

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2010年12月3日(金)付

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 この時節、深酒した店の手洗いで、何をやってるんだと我に返ることがある。鏡の顔は赤くふやけてスキだらけ。懲りないやつと突き放してはみるが、どこをどう見ても自分の面である▼歌舞伎俳優の市川海老蔵さん(32)が、飲み明かした末に殴られ、顔に大けがをした。〈いい酒は朝が知っている〉という広告がある。手術を終え、大いに我に返っている頃だろう。顔が命の役者、それも見目と美声で売る人気者だ。成田屋相伝のにらみなど、芸に障らぬよう祈りたい▼海老蔵さんならずとも、顔は印象を左右する。本紙「be」の読者調査では、7割近くが「男性の容姿は重要」と答えた。モテるかどうかだけでなく、就職や仕事でも見た目が物を言うと、多くが考えている▼古来、見かけをとやかく言われるのは男より女だった。現に、顔に傷が残る労働災害では、女性がより手厚く補償されてきた。「女性のほうが外見に高い関心を持ち、傷による不利益や精神的苦痛が大きい」(厚労省)との理屈である▼ところが今年、風向きが変わった。金属を溶かす作業で顔をやけどした男性が、補償の男女差は憲法違反だと訴え、認められたためだ。心の痛みに性差はないとする判決を受け、国は労災保険法の見直しを急ぐ▼もちろん、無傷ならいいというものではない。お年寄りの顔に趣があるのは、越えた労苦や納めた悲哀が刻まれるからだろう。深手はともかく、心身のささくれ、まんざらでもない。誰に見せるでも、花道をゆくわけでもないけれど、いい顔で齢(よわい)を重ねたい。

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