ここ数日、関東地方は穏やかな小春日和だ。陰暦の十月、雨風が少ない晩秋から初冬の時期を「小春」と呼ぶ。春がよみがえるような優しい表現だ。『徒然草』には「十月は小春の天気」とあり、鎌倉時代末期にはすでに使われていたようだ▼<玉の如(ごと)き小春日和を授かりし>(松本たかし)。けたたましいヒヨドリの鳴き声も、天から授かった柔らかい日差しの中では、どこか優しく響くような気がするから不思議だ▼落ち葉のじゅうたんを踏みしめながら、都心の公園を歩く。紅葉は里に下りてきて、カエデが燃えるような赤色に染まっていた。うっそうと茂っていた木々の葉が落ちたせいか、青い空が広く見える▼きょうから師走。一年を締めくくる月は、慌ただしく駆け足で通りすぎる。日差しはどんどん短くなり、午後五時前にはとっぷりと暮れる。昼間の暖かさがうそのように、夜の冷え込みは厳しくなる▼<人波のここに愉(たの)しや日記買ふ>(中村汀女)。書店や文具店では来年の日記や手帳が売り出されている。誇れることはほとんどないが、社会人になってから日記を続けていることはひそかな自慢だ▼数日分をまとめて書く無精な日記でも、年末に読み返して、自分を見つめ直すのは楽しいものだ。また同じ失敗をしてしまったなと赤面することも少なくないが、書き続けた蓄積は無形の財産になっている。