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彫刻家の自負にあふれた名言がある。〈大理石の中に天使が見えたので、自由にしてやろうと彫り続けた〉。ミケランジェロの言葉という。ルネサンスの巨匠には、「ここから出して」という細い叫びが聞こえていたに違いない▼天使を、機密に置き換えてみよう。国家や企業という巨石に閉じ込められた情報を自由にするには、ノミでコツコツやるまでもない。内側からの一撃で石は砕け、天使は飛び去る。そして戻らない▼米国の外交公電が大量に流出し、内部告発サイト「ウィキリークス」によって世界にさらされ始めた。天使の乱舞である。韓国高官が「北朝鮮は総書記の死後2、3年で崩壊するだろう」と語ったことなどが暴露され、米政府は憤まんやるかたない▼かたや、「仏大統領は裸の王様」「伊首相は軽率」といった人物評にさしたる意味はない。互いに気まずくなるだけのことだ。一外交官の一考察は、外交という「総合芸術」のひと筆、それも下書き程度のものだろう▼問われるべきは、玉石の情報が乱雑に漏れ、瞬時に広がる現実である。このサイトが名をはせたのは、在イラク米軍による無差別殺傷の動画だった。広く正義に資するものは歓迎だが、世の中、解き放つべきエンゼルばかりではない▼砕けた石から現れたのは、権力の非を暴く天使か、無法者を利する悪魔か。こうした流出が続くなら、真偽を含め、情報を冷静に見極める力がいよいよ求められる。メディアの真価が問われよう。無論、外から巨石をうがつ努力も怠れないと、肝に銘じたい。