沖縄県知事選は、仲井真弘多知事が伊波洋一前宜野湾市長らを破り再選された。主要二候補が普天間の「県外」「国外」移設をそれぞれ主張する異例の展開。島人の声に耳を閉ざしてはならない。
事実上の一騎打ちだった。現職の仲井真氏に新人の伊波氏が挑む構図だが、前回までと違うのは、米軍普天間飛行場の返還問題をめぐり、名護市辺野古への県内移設が選択肢から外れたことだ。
鳩山由紀夫前首相の公約で県外移設への期待が高まった沖縄県民は、民主党政権が県内に移設する日米合意履行に回帰したことを裏切りと受け止めた。沖縄県に在日米軍基地の約75%が集中する現状に、本土による「沖縄差別」と公然と語られるようになった。
仲井真氏はもともと県内移設を条件付きで認める立場だったが、県民感情への配慮から告示直前に県外移設を求める姿勢に転ぜざるを得なかった。普天間飛行場のある宜野湾市長を辞して県知事選に挑んだ伊波氏は、一貫して米領グアムへの国外移設を主張した。
福山哲郎官房副長官は「日米合意を踏まえる一方で沖縄の負担軽減に全力を尽くし、仲井真氏と県民にご理解いただくよう誠心誠意話し合っていきたい」と語った。
政府との協議を拒絶していない仲井真氏が将来軟化する可能性に望みを託したのだろうが、県内容認に再び転じることは至難だ。
伊波氏の得票も仲井真氏に肉薄し、国外移設への期待の高さも鮮明になった。県知事選と同時に行われた宜野湾市長選では、伊波氏の後継候補が当選し、移設先候補の名護市では市長や市議の過半数はすでに県内反対派だ。菅直人首相はこうした島人(しまんちゅ)(沖縄の人々)の声に耳を傾けねばならない。
日米両政府は来春までに同盟深化に関する協議の成果を文書にまとめる方針だ。首相はこの際、県内移設の困難さを認め、日米合意見直しを早急に提起すべきだ。
同時に、中国漁船衝突事件や北朝鮮の砲撃で重要性が指摘される日米安全保障条約の将来像や、沖縄に押しつけない米軍基地の在り方を議論せねばならない。
こう着状態をいいことに普天間飛行場が継続使用され、危険性や周辺住民の基地負担が固定化されることだけは避けてほしい。
民主党は参院選沖縄選挙区に続いて県知事選でも独自候補擁立を断念し、自主投票で臨んだ。これでは政権与党の責任を放棄したに等しいことも指摘しておきたい。
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