次期総統選の前哨戦といわれた台湾の五大市長選は国民党が台北など三都市を制した。中国との関係は争点とされなかったが、野党民進党が得票率で国民党を上回ったことは、その重みを示した。
二十七日に行われた五都市市長選で与党国民党が台北、新北、台中の三市で勝利し、南部の台南、高雄の二市は民進党が制した。
五都市は人口で台湾の約六割を占め、いずれも国民、民進両党の事実上の一騎打ちになった。台北、新北では二〇一二年の次期総統選に出馬が予想される民進党の有力候補が国民党候補に挑んだ。
国民党は現有の三市を守り馬英九総統の再選に展望を得た。しかし、民進党の得票率は50%で国民党の45%を上回り、惨敗した〇八年総統選の五都市得票率43%を大きく伸ばし、次期総統選の政権奪回に望みをつないだ。
今回の選挙は地方選ながら過去の選挙とは様変わりした。従来は、台湾独立を志向する民進党が中国との統一を掲げる国民党と対中関係をめぐり激しく対立した。
今回、民進党は新たな選挙戦術として、対中関係を争点にせず相手候補の個人攻撃も避けた。
背景には台湾の民主主義が成熟してきたことに加え、馬政権が進めてきた中国との交流や自由貿易拡大の影響もあって、台湾経済が上向いてきたことがある。
台湾の対中貿易依存度は四割を超え、外来の観光客は日本人を抑え中国人がトップに立った。民進党にしても中国との関係緩和に真っ向から反対できず、自らも関係改善を模索せざるを得ない。
しかし、海洋権益問題で中国が周辺国に示した強硬姿勢には台湾でも懸念が高まっている。東シナ海や南シナ海の島々の領有権問題では中国と立場が共通する馬政権が、中国と周辺国の対立に介入を避けたのは、その表れだ。
日本など周辺国では対中関係をめぐり論議が高まったのと対照的に、台湾の五都市市長選で国民、民進両党は論争を避けた。
経済的には対中依存を深めながら自立をいかに守るかという問いの深刻さを示している。
選挙で対中融和を進める国民党を勝たせながら、歯止めをかける民進党に得票率で軍配を上げたのは選挙民の知恵ではないか。
台湾が抱える問いは経済的に依存を深めながら海洋権益などで中国と対立する日本や周辺国にも突き付けられている。その重さは今後ますます増していくだろう。
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