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英国の喜劇俳優、ピーター・セラーズが54歳で急死して30年になる。当たり役は「ピンク・パンサー」シリーズのクルーゾー警部。ドタバタ劇は、大粒のダイヤモンドをめぐる怪盗との攻防で始まる▼高名なピンクダイヤがスイスで競売されたと聞いて、警部のとぼけ顔を思い出した。指輪を飾る25カラット弱のその石、公衆の目に触れたのは60年ぶりという。映画のように桃色のヒョウが浮かぶことはないが、宝石としては史上最高の約38億円がついた▼カラーダイヤの淡い色は結晶のゆがみなどに由来し、赤や青、黄もある。無色透明が貴ばれるダイヤだが、色つきも希少価値では劣らない。競売会場となったレマン湖畔の高級ホテルには、さぞや厚い警備が敷かれたことだろう▼セラーズの一作に、強大な悪の組織を例えて〈マフィアが少年聖歌隊に見えるほどの……〉というせりふが出てくる。そこまでの迫力はともかく、ピンクパンサーといえば、今や国際強盗団の通称だ。旧ユーゴスラビア出身者が中心で、故郷では義賊扱いらしい▼被害は10年で約400億円。3年前、銀座で2億円相当の髪飾りなどが強奪された事件では、一味の男が東京で裁きを待つ。組織の結束は固く、犯人奪還も一再ならずというから、こちらの警戒も怠れまい▼さて宝石と人と、どちらが奪いにくかろう。獄中の仲間はポケットに入らない代わり、逃げる足がある。連れ戻しを阻む早道は一つ、東洋の異郷で罪を償い、足を洗うと思い定めてもらうことだ。人の心というもの、たやすくは盗めない。