河村たかし市長が主導した名古屋市議会の解散請求で、市選管は有効署名が必要数に達しなかったと発表した。議会がほっとするなら大間違いだ。多数の署名が示した民意を深く受け止めるべきだ。
いまや全国注視の「名古屋の乱」。発端は河村市長が掲げた市民税の10%減税や議員報酬の半減をめぐる議会との対立だ。
河村市長と市民団体が「民意を反映していない議会は不要」と始めたのが、この議会の解散請求(リコール)だった。
百八十万人近い有権者のうち、四十六万五千人分の署名が集まった。しかし市選挙管理委員会は、署名を集めた受任者欄が空白の署名簿などが多数あるとして審査期間を一カ月延長した。
結局、全体の四分の一近い十一万人分以上が無効となり、議会解散の賛否を問う住民投票へ進むために必要な三十六万五千人に一万二千人ほど足りなかった。市民団体はきょう二十五日からの署名簿の縦覧で異議を申し立て、あくまで成立を目指す。
混迷は収まりそうにもないが、有効署名が必要数に達しなくても、議会が信任されたわけでは到底ない。無効数を除いても一都市として最多の署名数だった事実は、これまでの議会へのノーを示している。それをまた忘れれば、民意を漂流させることになる。
本紙社説が繰り返し求めたように、双方に歩み寄る動きが目立つようになったのは、背景に大きな民意があるからだろう。
年八百万円への報酬半減は、河村市長が議員活動の経費を別に措置する妥協案を示し、公明、共産両党の市議団が賛成に転じた。議会が本年度限りしか認めなかった市民税減税の継続も、自民党市議団は賛成に回ることにした。
どちらも十一月議会で可決されるかは不透明だ。しかし、ここにきて議会側が雪崩を打って賛成に転じ始めたのは、リコールがなくても、来年四月の統一地方選で任期満了の市議選が迫り、河村人気を恐れたためとの冷ややかな見方もある。
河村市長は「こうまでしないと動かないのが、いまの議会だ」と言い切る。議員たちの変化が選挙目当てだけかどうか。有権者は注意深く観察している。
名古屋の乱が、四月の全国の統一地方選に影響を与えるのは間違いない。「議会は王様になっとる。変えなあかん」。河村市長の問題提起に共鳴するのは、名古屋市民だけではないはずだ。
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