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天声人語

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2010年11月25日(木)付

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 あまたある果物のうちでも林檎(りんご)は、若い胸の内を委ねる隠喩(いんゆ)にふさわしい。〈林檎の木ゆさぶりやまず逢(あ)いたきとき〉。寺山修司の句は少年の切ない恋心だろう。これが「柿の木」では渋すぎるし、どこからかお寺の鐘が聞こえてきそうだ▼名高い藤村の「初恋」も林檎のイメージが詩全体を包む。〈まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき……〉。ビワやミカンに代役は務まるまい。林檎の赤は純情に加えて、どこか孤独をたたえ、青い林檎は思春期の硬さを呼びさます▼そんな林檎に白い色が仲間入りをした。青森の名久井農業高校の女生徒が開発し、地元農家の手がけた品が、東京の有名フルーツ店でお披露目された。まだ展示だけだったが、「紅と白は贈答にうってつけ」と注目を集めたそうだ▼林檎は袋をかけて日に当てずに育てると白くなる。だが農家には「白いと甘くない」という先入観があった。ところが袋をかけ、普通なら日当たりを良くするために摘む葉を残すと、糖度は赤林檎を上回った。自在な発想のお手柄であろう▼まだ先の話だろうが、フルーツ店は「雪のようなりんごをクリスマス向けに売りたい」と言う。〈君かへす朝の舗石(しきいし)さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ〉が北原白秋にある。古い時代の訳(わけ)ありの一首だが、とりわけ下の句など、白い林檎への賛歌のようだ▼果物離れが言われ、皮むきが面倒だからと林檎が敬遠される時世である。「りんごで地域を盛り上げたい思いがあった」。女生徒たちの夢が、いつか実を結べばすばらしい。

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