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「超氷河期」という言葉さえ聞く。来春卒業予定の大学生の就職内定率が、過去最低に落ち込んでいる。1年上の先輩たちは、6人に1人が進路が決まらぬまま大学を出て新卒未就業者と[記事全文]
名古屋市議会の解散を求める住民の直接請求(リコール)は、混乱の結果となった。河村たかし市長の呼びかけで、手弁当の市民が、46万人もの解散請求の署名を集めた。ところが、選[記事全文]
「超氷河期」という言葉さえ聞く。
来春卒業予定の大学生の就職内定率が、過去最低に落ち込んでいる。1年上の先輩たちは、6人に1人が進路が決まらぬまま大学を出て新卒未就業者となった。このままゆけば、もっと多くの無業の若者が生まれかねない。
大学で様々なことを学んだ後、やりがいのある仕事を見つけ、稼ぎを得て社会に足場を築く。そんな人生の予想図はもろくも崩れつつある。
浮かび上がるのは勝ち組、負け組といわれるような就職格差の広がりだ。
企業は厳選採用を進め、予定数に満たなくても採用活動を打ち切る。大企業のメガネにかなう人は奪い合いになる一方、受けては落ちることを繰り返し、追いつめられる学生がいる。
労働政策研究・研修機構が各大学を調べたところ、今春の新卒未就業者が3割以上を占めたのは、新設の私大や小規模校が目立った。大学の就職センター担当者は、「何をしたらいいかわからない」「企業に出すエントリーシートが書けない」といった点を学生の課題に挙げる。途中で就職活動から降りてしまう学生も増えているという。
今の就職難を不況だけのせいにするのは間違いだ。それを超えた構造的な不運が学生たちを苦しめている。
20年前に25%だった大学の進学率は5割を超え、多様な若者が学ぶようになった。だが、就職市場はそれに見合うものになっていない。何をすべきかつかめず、社会に出る準備が整わない若者を大学は無責任に送り出す。
経済界の方も、大卒者の質と量の変化に応じた多様で柔軟な採用のあり方を、示せていない。
若者が希望を持てぬ社会に未来はない。打てるだけの手を打とう。
採用意欲のある中小企業を集めた合同説明会が盛んになってきた。大企業志向の学生の視野を広げさせ、マッチングする試みは成果を上げているか。学生が敬遠しがちなハローワークと大学の連携は、まだ十分といえない。政府が矢継ぎ早に繰り出す雇用対策を卒業生につなぐよう、大学はどれだけフォローに努めているか。現場の工夫はなお必要だろう。
そのうえで、学校教育と産業社会の間で広がる構造的なミスマッチの是正に、社会を挙げて取り組むべきだ。
職業人となる意識を身につけさせるキャリア教育を、学校体系にきちんと位置づける。大学から職業へのコースは複線であるべきだ。企業は大学の人材育成力を損なう就活の早期化・長期化を正し、学業の成果を問う採用に変える。何度かチャレンジできるよう新卒一括採用からも転換しよう。
政府と大学、経済界の話し合いが始まった。守られぬ協定や倫理憲章でお茶を濁すことなく、実効性のある改革を打ち出さねばならない。
名古屋市議会の解散を求める住民の直接請求(リコール)は、混乱の結果となった。
河村たかし市長の呼びかけで、手弁当の市民が、46万人もの解散請求の署名を集めた。ところが、選挙管理委員会の発表では無効が11万人を超え、有効な署名が住民投票の実施に必要な36万人に届かなかった。
無効のなかには、代表者にかわって署名集めをした「受任者」が、署名用紙の所定の欄に自分の名を記入していなかったため、不備とされたものが万単位であった。きちんと書かれていれば成立した可能性があるし、市長側は、代表者が集めており空欄で問題ない、とも反論している。こんな手続き問題で、数十万の有権者の意思を無にしていいのか、論争が続くだろう。
市選管は、この受任者欄の精査のため、などとして審査期間を1カ月延長した。来年2月の愛知県知事選にあわせて出直し市議選をし、市長も自ら辞職して市長選も連動させるという河村氏のトリプル選挙構想も、請求の成否以前に日程的に出来なくなっていた。
選管委員4人のうち3人が市議OBだ。後輩市議をかばってのことではないかと市長側が抗議している。
結果は別にして、リコール騒動を通して、名古屋市議が多くの市民の共感を得られていないことは、はっきりした。遅くとも来年4月には任期満了に伴う選挙がある。最近になって、発端となった議員報酬半減や、市民税恒久減税の市長提案を受け入れる会派が出た。自民は自主解散を唱えている。
いずれも大量署名の効果だろう。
投じられた有権者の声は重い。それを最大限に尊重しなくてはならない。聞いたふりでやり過ごそうとすれば、政治不信はさらに激しくなる。
今後考えるべきは、名古屋市の混乱は議会が市長提案をそっくりのめば解決、ということでもないことだ。半減しても市議報酬は800万円だ。それでも高い、という市民もいるだろう。ではいくらが適正なのか。恒久減税は結構だが、市がするべき住民サービスは維持できるのか。
自治の根本にかかわる問題だ。市長と議員を戦わせるだけでなく、市民が考えるべき論点だとわかってきた。
今回、市民の目が地域の行政に向いたのは大きな収穫だ。28年も共産党を除くオール与党が続き、政策絡みの議員提案条例は最近まで30年以上ゼロ。こんな状態を市民も黙認してきた。
片山善博総務相は、住民投票を提起しやすくする地方自治法の改正を検討している。市長と議会が対立したとき、今より簡単な手続きで市民の意見を聴けるようにする狙いだろう。
貴重な体験をした名古屋市は、国に先立って、使いやすい住民投票の制度を実験してみてはどうだろうか。