商社の業界団体・日本貿易会が二〇一三年度入社の新卒者から採用活動を現在よりも四カ月ほど遅らせる提言をまとめた。異常な青田買いを是正する好機であり、産業界は足並みをそろえるべきだ。
優秀な人材獲得は至上命令だが早すぎる採用は企業と学生双方にマイナス−と弊害の大きさに気が付いたのだろう。大学生の場合、三年生の秋ごろから就職活動が始まる。教養も専門知識も乏しい学生では企業の競争力は低下が避けられない。
日本貿易会の提言は(1)学生への広報活動は卒業学年に入る前の春季休暇(二〜三月)以降とする(2)選考開始時期は卒業学年の夏季休暇(八月ごろ)以降とし、採用内定は十月一日以降とする(3)卒業後三年以内の未就職者を新卒枠の採用対象とする−などが柱だ。
商社は日用品からミサイルまで広範な事業を展開し、採用もとっくに国際化している。その業界が国内の人材確保に危機感を示したことは極めて重要である。
国内の人材の「質」低下は以前から問題視されてきた。
その原因の一つに学生・生徒の能力低下がある。日本学術会議は今夏、大学卒業後三年間は新卒扱いにすべきだと提言したが、それは就職活動の早期化と長期化で三年生以降は学問がおろそかになっていること。一度の勝負でその後の人生を決めてしまうのは不公平−として、企業の新卒一括採用の問題点を指摘したものだ。
通年採用や中途採用の拡大、正社員転換制度確立など採用活動の改革を求める声は、実は産業界の中にもある。それが進まないのは過去に挫折があるためだ。
「就職協定」は一九五三年に初めて結ばれたが、抜け駆け企業が続出したため六二年に廃止された。七二年に復活を決めたが九七年に再び廃止となった。現在は日本経団連の「倫理憲章」のもとで採用活動が行われている。
日本経団連の米倉弘昌会長は「学生、企業にとってどういう時期がいいか検討していきたい」と慎重。経済同友会の桜井正光代表幹事は採用時期で問題意識を表明した。一方、日本商工会議所の岡村正会頭は「提案は真正面から受け止める必要がある」と語ったが、具体策はこれからだ。
高度人材を含め多様な人材確保は企業だけでなく国の再活性化に不可欠な要素である。雇用のミスマッチ解消とともに産業界は採用の正常化に取り組んでほしい。
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