北朝鮮が完成間もないウラン濃縮施設を訪朝した米科学者に公開した。これまでのプルトニウム再処理に加え、新たな核技術を手にしたことになる。核活動を止めるには周辺国の結束が必要だ。
米国の核物理学者、ロスアラモス国立研究所のヘッカー元所長は北朝鮮寧辺を訪れ、ウラン低濃縮用だという施設に案内された。
千基を超す遠心分離機が設置され、近代的な制御室があった。北朝鮮当局者は「二千基の分離機がある」と言い、国内で生産したがオランダや青森県六ケ所村のウラン濃縮工場の分離機を参考にしたと説明した。実際に稼働しているかは現認できなかったという。
北朝鮮のウラン濃縮施設が確認されたのは初めて。黒鉛炉は閉鎖したが、数発の核爆弾の原材料となるプルトニウムを既に保有しているといわれる。これに加えて、ウランを高濃縮する技術を身につければ、二通りの核爆弾製造法を持つという深刻な事態になる。
二〇〇五年の六カ国協議の共同声明や、昨年採択された国連安保理決議に違反する。危険な挑発を続けるべきではない。
北朝鮮は最近、米元外交官や科学者を招待し、寧辺で実験用軽水炉を建設中だと伝えた。また、昨年五月に核実験をした咸鏡北道豊渓里では、新しい坑道が掘られたことが米民間衛星で確認された。
核開発を加速化して緊張を高めオバマ政権に対話を迫っている。米朝対話が実現すれば、自らをインドやパキスタンのような「核保有国」と認めさせ、そのうえで核削減を求めるなら大規模支援をせよという「瀬戸際戦術」をまた狙っているとみてよい。
注目されるのは、金正日総書記の三男正恩氏が後継者に選ばれ、党や軍の人事が整った時点で核活動を活発化させていることだ。正恩氏は労働党中央軍事委副委員長であり、権威を高めるため軍事力を増強させる恐れがある。後継体制でも核の脅しが続くのなら、国際社会は長く、困難な対応を迫られるだろう。
米政府はボズワース北朝鮮担当特別代表を韓国、日本、中国に派遣した。北朝鮮制裁をさらに強めるのか、六カ国協議を含む対話を探るのか、緊密な協議が必要だ。
中国は今年二回、金総書記の訪中を受け入れ、後継体制も事実上支持した。ウラン濃縮の動きを見すごすことはできまい。核活動の中止を北朝鮮に強く促す役割が求められる。
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