釣り上げられた時に浮袋を震わせる音が、愚痴を言っているように聞こえるため、グチと名の付いた魚がある。韓国では高級魚とされ、干物は贈答品として喜ばれるという▼ソウルの西の仁川港から高速船で約二時間。北朝鮮との国境近くに浮かぶ延坪島は韓国漁業の拠点だ。四月からはワタリガニ漁、グチの盛漁期の九月には全国から漁船が集まり、二千人足らずの人口は何倍にも膨れ上がるそうだ▼この島にはもう一つの顔がある。北朝鮮までわずか十数キロ。韓国側が黄海上の軍事境界線と位置付ける北方限界線を挟み、北朝鮮を見渡せる場所には海兵隊の軍事施設がある▼延坪島が位置する黄海の南北境界水域では、両国の艦艇が交戦、死傷者が出ている。四十六人が死亡し、韓国が北朝鮮の魚雷攻撃と断定した哨戒艦沈没事件も今年三月にあったが、住民を巻き込む陸地への砲撃は、これまでの軍事衝突とは明らかに次元が違う▼北朝鮮の人民軍はきのう陸上から延坪島に向けて砲撃した。韓国軍の兵士二人が死亡し、住民にも負傷者が出た。韓国軍も北朝鮮側に応戦し、戦争を想起させる砲撃戦になった▼後継体制のための軍事的な実績づくりのためなのか、北朝鮮の真の狙いは分からない。だが、飢える民衆を無視した核開発や軍事的挑発を繰り返す愚によって、国際社会から一層孤立することだけは間違いない。