柳田稔法相が国会軽視発言の責任を取って辞任した。発言内容からすれば当然の結末だ。これを機に、菅直人首相は政権交代の原点に返って閣内を引き締め、政策の実現に死力を尽くすべきだ。
柳田氏は地元選挙区での会合で法相の国会答弁について「個別の事案については答えを差し控える」と「法と証拠に基づいて適切にやっている」という二つの言葉を覚えておけばいい、と語った。
これは国権の最高機関たる国会と、法相の職務をともに愚弄(ぐろう)する発言だ。本紙は菅首相に、柳田氏を罷免するよう求めてきた。
柳田氏は辞任後の記者会見で「補正予算案を速やかに通すためやめさせていただく」と語った。
参院で問責決議が可決されれば二〇一〇年度補正予算の成立が遅れる公算が大きかった。柳田氏は決議案提出前の辞任決断に追い込まれたわけだが、本来なら首相が罷免を決断すべきだった。
共同通信の世論調査によると、九月の菅改造内閣発足直後は64%を超えていた内閣支持率も、十一月はじめには32%台と半減した。
世論調査がすべてではないが、代表選で小沢一郎元代表を破り、「脱小沢」を掲げて一時は高い期待を集めた菅首相から、人心が離れつつあるのは確かだ。
民主党が、昨年の衆院選で政権交代を果たした原動力は、政治を霞が関官僚から、国民が選挙で選んだ政治家の手に取り戻してほしいという、政治主導への熱い期待感にほかならない。
官僚の抵抗を排して無駄遣いを省き、税金を効率的に使い、膨らんだ国の借金を少しでも減らす。そうした国民の期待に、民主党と菅内閣は、どこまで応えたのか。
柳田氏の進退問題は長引き、政権としての決断力不足を印象づけた。柳田氏は辞任前、より踏み込んだ答弁が可能か否か官僚である刑事局長に指示したが、これは政治主導の放棄ではないのか。
首相はこれを機に、自らが先頭に立ち、緩んだ閣内を引き締め、国民生活を立て直すための政策を少しでも多く、早く実現すべきである。もはや、助走期間と大目に見るわけにはいかない。
野党側にも注文がある。政府をただすのは野党の役目だが、補正予算の成立をいたずらに遅らせるようなことはあってはならない。
「ねじれ国会」では、参院で多数を占める野党側も、国政遂行の重い責任を、与党と共同で負っていることを忘れるべきでない。
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